私が出会った職場①
二十代の終わりに、とある工場でバイトをした。精密機器を作っている工場だったのだが、問題は休憩時間だった。私以外の作業員は、みんなタバコを吸いながらおしゃべりをしているのだが、タバコを吸わず、なおかつ煙が苦手な私は、その輪に入れなかった。だから、私は休憩時間に、大好きな読書をすることにした。
これが、多くの人の反感を買った。休憩時間に一人で読書をすればするほど、私は周囲から浮いていった。
「ここは図書館かと思った」
と冷やかす人もいれば、
「本なんて読んで面白いか?」
と、不愉快そうに尋ねる人もいた。
「お前は本ばかり読んでるけどよう!」
と怒り出す人もいた。
「読書をしている人が気に入らない」という人は、かなり多い。別の職場では、
「二条君。ここは勉強ができない人が集まっている職場だから、読書をするのはやめてくれないか」
とハッキリ言われたこともある。ウソのように聞こえるかもしれないが、本当の話だ。
「読書をしている姿」というものが、彼らのある種の感情を刺激してしまうのだろう。また、「読書をしている男性」というのは、物静かで大人しそうに見える。男性としては「弱そう」なイメージを受けるため、攻撃の対象になりやすいのだと思う。
だが、読書が好きな人は、どうすれば良いのだろう。ひきこもりには読書が好きな人が多いイメージがあるが、こんな職場が実際にあるのだから、我々は社会に出ようにも、出ることすらできない。
働きぶり以前に、休憩のしかたで非難の対象になる。それはとてもおかしいことだけど、実際の社会はおかしいことだらけなのだ。
休憩時間の読書は、それほど「悪」であろうか。
(ひきコミ91号掲載文)