お前、バカじゃないの?

バイト代をもらった。三万円だった。そのうち、一万円を父に現金書留で送った。いつも多額の仕送りをしてもらっているので、その恩返しのつもりだった。

その父から電話があった。

「父さん嬉しいよ。ありがとう」

そんな言葉を期待していたのだが、電話口から聞こえてきたのは、信じられない言葉だった。

「淳也、お前、一万円も俺に送って……。給料の三分の一も俺に送ってどうするんだ。お前、バカじゃないの?」

「ありがとう」というお礼の言葉を期待していた私は、愕然とした。まさか一万円を仕送りして、バカ呼ばわりされるとは夢にも思っていなかったのだ。

悲しかった。悲しくて悔しくて、涙が出そうだった。そして、そんなに悲しくても、仕送りが途絶えるのが怖くて、「あはは」などと愛想笑いして、父の機嫌を取ろうとしていた自分が情けなかった。

「バカじゃないの」というのは、父の照れくささだったかもしれない。素直にお礼が言えなくて、そんな表現になったのかもしれない。

でも、それにしても、ものには言い方というものがある。ひきこもりの自分が勇気を振り絞って人の中で働き、必死に稼いだお金なのに、「バカじゃないの」という言葉が返ってきたことが、ひどくこたえた。

「そんな言い方はないだろう! そんなこと言うなら、もう俺、働かないよ!」

そんな言葉が、今にも口から出そうだった。正直、父のこの言葉によって、私の労働意欲は大幅に減退した。心ない言葉を浴びせた罰として、父に仕送り増額の願いでも申し込んでやろうかとすら思った。

ひきこもりの人間は傷つきやすい。特に、良いことをして、他者が思い通りの反応をとってくれかなった時は、ひどく傷つく。それはたぶん、一般の人にも理解可能な感情だと思う。

今度父から仕送りをもらったら、このことについて言及して、父の一万円札を目の前でビリビリに破いてやろうかとすら思う。その引きちぎれた一万円札が、私の心象風景を示しているようで、なんだか効果的な反撃方法に思えるのだ。

働く気がしない。

9 Responses to “お前、バカじゃないの?”

  1. まる Says:

    昨日、初めてブログを読ませて頂きました。
    なんて正直に、心の汚い部分までも書いているのかと
    驚きました。
    真剣に生きることを求めていらっしゃる方だと感じました。
    文章も上手で、知的能力が高い方だと感じました。

    ブログを書いて下さってありがとうございます。
    これからも読みます。応援します。

  2. 二条淳也 Says:

    まるさん

    ブログ、読んで頂いて、ありがとうございます。

    ヘタな生き方しかできませんが、世の中にはこんな人間もいるんだなあ、と思っていただければ幸いです。

    日記ではなく、エッセイ形式のため、毎日のように更新することはできませんが、自分なりにやっていきますので、これからも遊びに来て下さい。

  3. みみ Says:

    今日初めて拝見しました。何か他人事とは思えない内容もあったりで号泣してしまいました。
    お父さんの目の前でお金を破くのはまずいと思います。大切に思ってくれている人は大事にしてください。

  4. 二条淳也 Says:

    みみさん

    コメント、ありがとうございます。

    父の前でお金を破くのは、確かにまずいですね。父は確かに、私のことを大切に思ってくれています。
    私も父のことを、不器用なりに大切にしていこうと思います。

  5. Says:

    これは傷つきますね
    親っていうのはたまに、とんでもなく残酷な仕打ちを平気なかおでしてきますからね
    わたしもよく絶望したものです
    ほんとうにいやな気持ちでいっぱいだったでしょうが、いつか良い思い出としてお父さんと笑えるようになることを祈っています。

  6. 二条淳也 Says:

    まさん

    たしかに、親というのは、ときとしてとても残酷なことをしますね。

    温かい励まし、ありがとうございました。

  7. 厳角 Says:

    絶対傷つきます。俺でも同じことされたら仕事も辞めて金を破いてやろうと思うでしょう。間違いなく。
    ただしそれはあくまで自己陶酔・逆切れでしかないんですよね。悲しいことに。まるで無意味なんですよね。

  8. 厳角 Says:

    馬鹿じゃないのって言われますよ。今後も仕送りしてもらうのなら恩返しにならないでしょう。また送ってもらうお金の中にその1万円が再び含まれることになるんですから。。

  9. 二条淳也 Says:

    厳角さん

    そうですか。

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