一日だけのバイト。

「試しに一日だけのバイトをしてみたらどうか」

と言ってくる人がいる。なるほど、確かに一日だけのバイトなら、人間関係や作業の熟練が要求されず、ハードルは低いかもしれない。また、一日だけのバイトを成功させることによって、少なからず自信がつき、長期の就労に近づけるかもしれない。

こんな提案をしてくれる人は、その人なりの親切心で言っているのだろう。それを疑うつもりは全くない。また、一日だけのバイトをしてみるというのは、かなり現実的で効果的であり、ひきこもり当事者の私から見ても、有効のように思える。

だが、そんな「一日だけのバイト」に踏み切る勇気がない。「一日だけのバイト」には、それ相応のマイナス面があるからだ。

まず、「一日だけのバイト」は、どこの職場も、人間扱いされない職場が多いらしい。番号で名前を呼ばれたり、ロッカーがなかったりするのは序の口で、「バカ野郎!」とか平気で言われるらしい。

ひきこもりにとって、勇気を振り絞って働いた先で「バカ野郎」と言われるのは、とてもつらいことである。罵声に慣れていないひきこもりには、ダメージが大きすぎる。数千円の賃金の代償として、終業時間まで怒鳴られ続けるのは、いかにも割に合わない。

自信をつけるために一日だけのバイトをしてみたのに、かえって心の傷を深くさせ、社会からの撤退を強めることも充分に予想される。

これが、ひきこもり特有の弱さだとは、私は思わない。「バカ野郎」と言われながら働くことは、誰にとってもつらいことだと思うのだ。

現在、一日だけのバイトの主流が派遣なのか、普通のバイトなのかは分からないけれど、一日だけのバイト現場がそうとう荒廃していることは、事実のようなのだ。

そして、ひきこもりの多くは、その現実を知っている。「バカ野郎」が飛び交っていることをなぜ私が知っているかといえば、毎日のようにバイト情報に目を光らせているからだ。それほど、ひきこもりの多くは働くことを強く考えているのだ。

一日だけのバイトをすれば、少しばかりの自信はつくかもしれない。ただ、それは、そのバイトが成功すれば、の話だ。もしかしたら、丸一日怒鳴られ続けたために、より一層労働に対する恐怖感を強めるかもしれない。

ひきこもりの親御さんには、現在のバイトの現場がそれほどすさんでいることを、よく分かって欲しい。

2 Responses to “一日だけのバイト。”

  1. Iタイガー Says:

    いわゆる日雇い派遣ですね。
    仕事場によっては、派遣労働者は本当に物扱い、だそうですね。
    なにより派遣労働者の派遣費用は経理上、人件費ではなく物品費として計上されるくらいですからね。

    集合場所から仕事場まで労働者を移送する際、バスではなくトラックに「載せて」移動させた派遣会社(当然、道路運送法違反)、
    冷凍倉庫での作業なのに防寒手袋を支給されず凍傷を負ったとか、
    ビル解体作業で粉塵が舞う中で使い捨てマスクしか支給されず呼吸障害になったとか・・・
    派遣労働は、精神的な打撃だけでなく、肉体的な打撃を被る可能性もあります。

    いつの間にか私たちは、人権もクソもない社会で生活しているのです。
    殺し合いが毎日行われる内戦・紛争地帯と、無権利・非人権的な派遣労働が横行する日本は、精神構造的には、それほど違いがないのでは?と思います。
    バンバン銃で撃ち殺すか、バンバン解雇する(緩やかな殺人)か、の違い。
    なまじ緩やかな殺人なだけに、人々は自分たちの置かれた惨状に気付きにくく、それゆえ現状を是正する革命的なことも起こりにくいでしょう。

    政財界のお偉いさんは、「経済の成長のためには雇用の柔軟性(非正規雇用の積極的活用)が重要」と叫んでいますが、こんな酷い労働環境を出現させておいて、いい気なものです。
    間違いなく日本の社会は荒廃していくでしょう。
    経済のグローバル化に備え、英語の出来る優秀な外国人を雇い、いっぽうでワーキングプアは結婚できず、純血な日本人は、どんどん減っていくでしょう。
    昔、海外が日本を揶揄したエコノミック・アニマルという言葉。
    でも当時は終身雇用が当たり前でした。
    今こそ、まさに日本人はエコノミック・アニマルです。
    カネのためなら、日本人の血が消滅してもいいと言わんばかり。
    カネ、カネ、カネ、目先のカネ。カネ中毒者が溢れています。
    彼らはカネをいくら手に入れても満足できず、カネを無限に増やそうとし、投機マネーに手を出して世界経済を混乱に陥れています。彼らマネー・ジャンキーを強制入院させたいものです。

    自分の業界しか眼中にない財界人、自身の政治家生命しか眼中にない政治家。
    (『カンブリア宮殿』等に出てくる労働環境の良い企業は、微々たる存在)
    日本社会は今、野獣化しています。
    この異常な野獣社会に対し無批判な順応を強要するならば、
    それは「人間の進化を否定し、退化せよ! 猿になれ!」という命令に等しいと思います。
    こうして国民の大半が「猿化」した国家は、きっと滅びます。
    そして何も残らない。Japanという名の抜け殻だけが横たわる事になるでしょう。

  2. 二条淳也 Says:

    Iタイガーさん

    ホント、今の派遣の現場はひどいみたいですね。私も派遣で、クビになったことがあります。

    働く人をモノ扱いしていれば、働く人はみんなイヤになってくるのは当然だと思いますね。私はバイトや派遣ばかりをやってきて、ついに何もしないひきこもりになりましたが、今でもあのような現場に戻ろうという気がおきません。

    いつか、企業側にツケが回るような気がするのですが。

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