お金ではない「本当の豊かさ」とは何か? 世界一貧しい大統領ムヒカ氏のメッセージ
「世界一貧しい大統領」として知られたホセ・ムヒカ前ウルグアイ大統領。大統領時代は給料の9割を寄付するなど、贅沢をせず慎ましい生活を送るムヒカ氏ですが、その根底には、時間やお金についての独自の哲学がありました。2016年4月の初来日時に行われた講演で語った“ムヒカ哲学”についてまとめました。
- スピーカー
- 前ウルグアイ大統領 ホセ・ムヒカ氏
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お金を稼ぐために費やした“時間”でモノを買っている
ムヒカ氏が贅沢を求めないのには理由があります。彼はお金の本質をこう見抜いています。
生きるということは、単純に仕事をするということだけではないのです。ほかの言い方をすれば、ほかにいろいろなことをする必要があります。なぜならば、あなたがもし何かを買う時、それは、あなたは何かをお金で買っているのではないのです。
あなたが買うということは、それはあなたの人生の一部の時間、そして、その時間をお金を稼ぐために費やさなければならなかった人生の一部の時間で払っているのです。
そして、あなたは人生の時間というものをきちんと尊重しなければなりません。ですから、節度ということが重要なのです。なぜならば、時間は必要だからです。重要だからです。人生を楽しむために、享受するために、自由な時間というのが必要だからです。
引用元 「一番大きな貧困は孤独」 世界で一番貧しい大統領 ホセ・ムヒカ氏の初来日講演
一番大きな貧困は孤独
また、貧困とはモノの問題ではないと語ります。
モノというのは、親愛、愛というものをくれません。そうではなくて、「生きる」ということが愛をくれるのです。そのために時間が必要です。
しかしながら、この人間というのは欲のたくさんある動物であります。アリストテレスが言ったように、人間というのは政治的な動物です。なぜならば、他のものが必要だからです。例えば、1人で生きること、孤独で生きることはできないのです。あなたの存在というものは、そのほかのもの、社会の他者があるからこそ可能であり、また、確実なものとなるのです。
例えば、アイマラ族。こちらはアンデス山脈に住んでいる人々ですけれども。
ここで貧しい人、かわいそうな人というのはコミュニティがない人であります。すなわち同伴してくれる、一緒に生きてくれる、その人のグループであります。
なぜならば、一番大きな貧困というのは孤独だからです。貧困というのはモノの問題ではありません。それはこの人生というものを共有するということが重要なのです。
引用元 「一番大きな貧困は孤独」 世界で一番貧しい大統領 ホセ・ムヒカ氏の初来日講演
市場に操られると自由でなくなる
現代に生きる私たちは常にさまざまな市場に取り囲まれていますが、それに操られてはいけないと警鐘を鳴らしています。
みんな、私のことを貧しいと言いますが、私は貧しいわけではありません。私は質素なだけです。以前は「慎ましい」(austerity)と言ってましたけれども、それはもう好きではありません。
「austerity」はヨーロッパの緊縮政策と結び付けられるので、今は好きではありません。私は単に質素が好きなだけです。私にとって重要なモノさえあれば、十分なのです。
質素であるほうが、私が本当にしたいことができる時間があるからです。私にとって大切なのは、例えば社会運動もそうですけど、ほかの人にとっては絵を描くことが大切かもしれません。
魚釣りをすること、遊ぶこと、あるいは、毛糸を編むことが大切な人もいるでしょう。あるいは友人と遊ぶことが好きという人がいるでしょう。そういう時間を過ごすことが自由であるということです。
そのために必ずしもモノが必要なわけではありません。ですから、本当に本当に必要なモノがあれば十分なわけです。
ただ、どんどん必要にさせられていく。市場に操られてどんどん必要なモノが増えてしまうと、それは決してあなたは自由ではなくなります。なぜならば、あなたの大切な時間が、その市場によって失われてしまうからです。そして、あなたが欲しいモノを買うためにあなたの自由な時間が失われてしまうのです。
引用元 「世界で一番貧しい大統領」ホセ・ムヒカ氏が語る、人生でもっとも重要なこと
多くのものを必要とする者が貧しい
最後に、ムヒカ氏が考える貧しさの定義とは。古代ローマの哲学者セネカを引用し、こう答えています。
市場にあなた方の人生を奪われてはいけません。消費主義に支配されてはいけません。
言うのは簡単です。でも、クモの巣に捕まってしまったようなもので、いつもいつも「あれを買え」「これを買え」と責め立てられています。本当に必要不可欠なものだけ買えるようになれば、必要な時間はできるでしょう。
この定義を覚えておいてください。セネカ(注:古代ローマの政治家、哲学者、詩人)です。セネカの言ったことです。「多くのものを必要とする者が貧しいのだ。なぜならば、その限界を知らないから」とセネカは言いました。
引用元 ムヒカ氏「貧乏とは、多くのものを必要とすること」 消費に時間を奪われない生き方を説く
お金を稼ぐことが幸せへ続く道ではないことをムヒカ氏は証明してくれています。自分の人生でもっとも大切にすべきことはなんなのか、いま一度じっくり考えてみてもいいかもしれません。