映画館で「オペラを見る」時代がやってきた

ライブビューイングが開拓した新娯楽の衝撃

映画館でオペラ。今や世界70カ国に広がった人気イベントだ(写真: Ken Howard/Metropolitan Opera )

先ごろ「METライブビューイング2015-16」の最後を飾る演目、R.シュトラウスのオペラ『エレクトラ』が上映され、2015年10月、ヴェルディの『イル・トロヴァトーレ』で開幕した今シーズンの10公演すべての上映が終了した。そもそも「METライブビューイング」とは、いったいなんだ?

オペラなのだから“上映”は“上演”の間違いではないか? などと思われる方も多いと思うので、ここで少し「METライブビューイング」について説明しておきたい。

ニューヨーク州マンハッタンのリンカーンセンターにある「メトロポリタン歌劇場(通称MET/メト)は、130年以上の歴史を誇るアメリカ合衆国随一のオペラハウスにして、イタリアのミラノ・スカラ座や、フランスのパリ・オペラ座などと並ぶ世界最高峰のひとつに数えられる名門だ(1883年、ブロードウェイに建設されたオペラハウスは1966年、現在のリンカーンセンターに移転)。

上演中のオペラを映画館で同時上映

映画『月の輝く夜に』の舞台としても名高いこのオペラハウスのロビーには、シャガールの2枚の巨大な壁画が飾られ、まさにニューヨークの文化のシンボルとして、世界中のオペラファンに愛されている。このMETが、総裁ピーター・ゲルブの発案によって2006年に始めた新しい試みが「METライブビューイング」だ。その名のとおり“METで上演中のオペラを、世界中の映画館で同時上映する”というアイデアは、ともすればオペラハウスへの観客を減らす結果になりかねないようにも思えるが、結果は逆に新たなオペラファンを呼び込んでいるというのだからすばらしい。まさに発想の転換だ。

2006年12月にジェイムズ・レヴァイン指揮による『魔笛』を世界6カ国150の映画館で上映したのを皮切りに、2007年1~4月にかけて6作品を上映。以来毎シーズンMET選り抜きのステージを上映し続け、10年が経過した現在では、世界70カ国2000カ所を超える映画館で上映される人気イベントへと成長した。

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