今回の内閣改造から、新設された「大臣補佐官」の任命が始まる。公務員改革の一環で設置されたもので、政治主導の強化、若手政治家の活用などが目的とされているという。大臣補佐官は4月の国家公務員制度改革関連法成立で新設が決まったが、今回の改造まで隠し球としてとっておいた。
すでに副大臣や大臣政務官という制度がある中で、大臣補佐官という役職は権限のあいまいさを生まないか。そもそも官僚たちはこの大臣補佐官をうまく「利用」しようと考えるのではないか。気になるのは、官僚たちが大臣補佐官をどう「料理」するか。
大臣補佐官には具体的な権限はなく、主な業務は大臣への助言となる。制度としては、内閣総理大臣補佐官が古い。1996年に3名(後に5名に引き上げ)以内を置くと内閣法に規定されたが、それ以前にも事実上の内閣総理大臣補佐官は多数いた。法制化されて以降、46人が任命されたが、このうち任命時に衆参議員でない人は6名にすぎない。各省の補佐官も防衛省以外は制度化されていないが、他省庁でも実質的な補佐官ポジションを置いていたところはある。今回の大臣補佐官は、自民党の若手政治家の育成ポストとして利用したいようだ。
しかし、ここに落とし穴がある。
政治家は若手であっても、選挙があるので、どうしても露出して目立ちたくなる。テレビに出たい政治家は後を絶たないので、政治家のテレビ出演料は最低ランクだ。カネを払っても出たい政治家はたくさんいる。
この露出したいという政治家の本能は、大臣に助言して黒子に徹するという補佐官には向かない。政治家の大臣補佐官が大した仕事をしたという例はあまりなく、官僚出身で黒子に徹した補佐官のほうが実質的な仕事をしている。
ある省庁の大臣補佐官の話によれば、いつも大臣の会議に出席するように指示を受けており、官僚から大臣に上がってくる資料についてコメントし、場合によっては、大臣を前にして官僚とバトルをやることもあったという。そのバトルで、官僚側の資料の問題点を指摘し、大臣が官僚の言いなりにならないようにするというのが補佐官の役目であったようだ。しかも大臣補佐官としてマスコミに登場することもなく、話す相手は部内の官僚と上司である大臣だけだったという。
こうして、外部やマスコミとは接触せず、部内で官僚と対等に議論するのであるから、並の政治家では無理だろう。経験も知識もないからだ。官僚側からみれば、若手の政治家なら、大臣の面前で論破するのも簡単であろうが、そこは政治家の顔をつぶさずに適当にあしらうことも可能となるわけだ。
となると、大臣補佐官に任命された若手政治家の多くは、期待された役割を果たせずに、消えていくだろう。その際に行われる官僚の「料理」の仕方を教えよう。一番安易なのは、補佐官主催の研究会だ。これであれば、補佐官と副大臣・政務官との棲み分けも可能で、なにより口出しする領域を限定できる。しかも研究会の進行では補佐官の出番もできるので、政治家の満足感も得られる。ただし、中身は、事務局をやる官僚が作るので、補佐官をうまく「利用」しているだけだ。
補佐官というのは、個人の能力・資質があってこそできる仕事なので、研究会で外部の有識者から意見を聞くようでは既に失格である。若手政治家のみなさん、このような簡単な話に乗っかってはいけませんよ。
『週刊現代』2014年9月20・27日号より
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