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呪い
「ところで、お館様はなぜ「幼竜の肉』を召し上がらなかったのですか?」
ソレイユ元銀爵が自室に戻った後もワインを飲んでいたセイジツ金爵に、執事が尋ねる。
「くふふ。あんなものを?冗談じゃないね。昔からあの手のアイテムは呪いがかかっているのが定番だ。怪しいと思って爺に試したところ、やっぱりだった」
セイジツ金爵はいたずらっぽく笑う。
「して、呪いとは?」
「たしかに『幼竜の肉』は体を若返らせる伝説の秘薬だ。だが、それを食べたものはマザードラゴンの呪いを受ける。具体的に言えば、腹が空いて、食べても満たされなくなるのさ」
「え?その程度の呪いですか?」
執事は拍子抜けしたように聞き返すが、金爵は面白そうに笑った。
「ふふ。実際に見てみるかい?」
金爵はそういって、地下牢へと向かう。
「……これは!」
執事は牢の中にいる人間を見て驚く。そこには王の目の前で実験台になった元老人がいたが、金爵家の教育係を勤めたほどの教養があったしぐさはすでに失われていた。
「ウガァ!」
浅ましく異臭がする残飯を食べあさっており、餓鬼のように腹が膨れている。
「あはは。子供の頃はこいつに嫌になるほど折檻されて恨んでいたが、今じゃただの獣だな」
実に無邪気にセイジツ金爵はあざ笑い、執事の背筋が寒くなる。
「か、彼はどうなるのでしょうか?」
「さあ?気が済むまで食わせてあげるよ。僕の元先生だからね。どんどん太って太って太って……さいごには破裂しちゃうかもね」
地下牢にセイジツ金爵の笑い声が響き渡る。
「ま、まさか、王とお嬢様も……?」
「ああ。二人とも自制心なんてなさそうだし。好きなだけ食べて飲んでを繰り返し、最後にはポックリ逝くだろうね。それまでは元気に振舞うから、僕が毒を盛ったと責められることもない。まあ、長くは持たないよ。その後にアベルを王にして、実権は僕が握ればいい」
セイジツ金爵は狂気の表情で笑い続けるのだった。
シャイロック家
蒼月夜を迎えて、邸内には緊張が高まっていた。
「異常はないか?」
「はっ!アリ一匹も見逃しません!」
見回りに出ている騎士の数も多く、士気も高い。
今までになんども侵入者に警備を破られて、騎士団は過剰なくらい神経質に警備をしていた。
「すこしでも不振なことがあれば、報告するのだ!」
リトネも警戒して、執務室に待機している。徹夜して警戒にあたるつもりだった。
「不用意に眠ってしまう者がいたら、注意しろ!」
騎士たちがバタバタと城内をかけめぐる。
メイド部隊はそれを見て、すっかり怯えてしまっていた。
「ネリーさん。大丈夫かな?」
メイド長ネリーと同室であるリンも不安に思い、ネリーに体をすり寄せる。
「大丈夫ですよ。何か起きたらすぐにお坊ちゃんが来てくれますから、リンさんはゆっくりやすんでください」
ネリーは優しくリンの頭を撫でる。
「うん……それじゃ、お休みなさい」
ネリーに慰められて安心したリンは、やがて安らかな寝息を立て始めた。
(……まったく。こうやかましかったら、落ち着きませんわ。今日は何もする気はないですのに)
今までのほとんどの騒動に関わっているくせに、ネリーはそんな不満を持つ。
(こういう時は、さっさとねてしまうに限ります)
ネリーは隣のベッドに耳栓をして横になる。しばらくすると、安らかに寝息を立てて眠りに落ちるのだった。

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