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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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風のエメラルド

しばらく抱き合っていた二人だったが、カエデの体から力が抜ける。
「あ、あれ?」
へなへなと腰が抜けて、地面にへたり込んだ。
「カエデ姉、大丈夫?」
「だ、大丈夫よ。ちょっと魔力を吸われすぎちゃったみたい……」
腰砕けになりながらも気丈に笑いかける。
「くそ!何か魔力を回復させるもの……あった」
アベルは袋から白い液体がはいったペットボトルを取り出す。
「それは?」
「『聖なるミルク』さ。これを飲むだけで魔力と体力が大幅に増強されるんだよ」
アベルからペットボトルを手渡されたカエデは、残った一滴のミルクを飲む。
みるみるうちに力がわきあがってきた。
「これってすごいわね。完全に回復したわ。それにしても、忌々しい!」
カエデは憎々しげにシーフの頭を踏みつける。
すでに両断されていた頭からは脳ばはみ出て、ぐちゃぐちゃになっていた。
「はあはあ……え?これって」
荒い息をついていたカエデは、地面に落ちたペンダントを見つめる。
さっきまではくすんだ緑色をしていたのに、今はキラキラと輝いていた。
「……きれいなエメラルド。一応もらっておきましょう」
ハンカチで綺麗に拭いて、自分の首にかける。
「カエデ姉が元気になってよかった。なら、こんなところはさっさと帰ろう」
そういってアベルは踵を返すが、カエデにとめられる。
「待って。『幼竜の肉』を持って帰らないと。たぶん、この宝箱にあるのよ」
そういって祭壇に登り、そこに設置してある宝箱を開ける。
ギギギッという音を立ててあいた宝箱のなかには、干からびたトカゲのようなものが入っていた。
「これが『幼竜の肉』?気持ち悪いし、なんか臭い」
鼻をつまみながら持ち上げ、袋に入れる。
「用は済んだ?なら、いこう……え?」
アベルが不穏な気配を感じて警戒する。固く封印されている奥の扉から、緑色の瘴気が立ち上ってきたからである。
「な、なに?」
「わからない。早く行こう」
圧倒的で邪悪な魔力を感じていたので扉の封印を破る気になれなかった。
アベルたちは警戒しながら、その場を後にした。
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