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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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アベル出動

数日前
王都のセイジツ金爵家に、一人の少年が意気揚々と帰ってきた。
「叔父上、ただいま帰りました」
金色のスーツを着ている少年は、金色のヘルメットを脱いで館の主に笑いかける。
金髪の絶世の美少年は、主の姉がうんだ隠し子でアベルと言った。
「おかえり。冒険の旅はどうだった?」
やさしい叔父は彼を迎えて、お茶とお菓子を勧めながら聞いた。
「ふふ。私はついに『天竜の兜』を手に入れました」
金色のヘルメットを見せびらかしながら自慢する。
「ほう……よくやったぞ。私も鼻が高い。さすが勇者の後継者だ」
セイジツ金爵はヘルメットを見ながら、アベルをほめる。
「えへへ……すごいでしょう」
アベルは嬉しそうに笑いながら、武勇伝を話し始めた。
「それで、凶暴なハリネズミが襲ってくるのを、光の魔法で打ち倒して……」
延々と続く甥の自慢話に付き合いながら、セイジツ金爵は内心でニヤニヤする。
(ふふふ。勇者として覚醒したと喚きだした時は、ついに狂ったかと思い、半ば追放するつもりで冒険者として送り出したが、まさか勇者の鎧や兜を持ってくるとは。こいつはまだまだ使える。王が引退するときにこの鎧や兜を出すと、後継者として有利になるだろう)
自分の甥を徹底的に利用するつもりの彼は、アベルのスポンサーをしていた。
彼が下賎な金稼ぎなどに煩わされることなく冒険の旅ができるのも、彼が資金援助をしているからであった。
ひとしきり甥の自慢話を聞いたセイジツ金爵は、彼に言う。
「次は、アンデス領の『風の墓場』というダンジョンにいってみないか?」
「『風の墓場』ですか?そこには何があるんですか?」
アベルは聞き返す。
「話に聞いたところでは、金銀財宝がたくさんあると聞く。それを持ってきてもらいたいんだけどな」
セイジツ金爵は煽るつもりで、そんなことをいう。
しかし、アベルはゆっくりと首を振った。
「叔父上!私は勇者の血を引く高貴な者。下賎な金貸しや冒険者のように墓荒らしなど、したくはありません」
アベルは勇者としての誇りをもって拒否した。
「そ、そうだったね。うーん」
内心では舌打ちしながら、セイジツ金爵は考え込む。
(この役立たずの無駄飯ぐらいにかかった金くらいは回収したいんだが、こいつは天竜シリーズ以外の宝に興味がないから、何も持ってこないんだよな……そうだ!)
アベルを釣るための餌を思いつく。
「そういえば、君の幼馴染のカエデちゃんにこの間会ったよ。覚えているかい?」
「カエデ姉ですか?」
アベルの顔がぽっと赤く染まる。隣に住んでいたカエデは、彼にとって幼いころから姉のように面倒をみてくれた優しい少女だった。
「懐かしいですね。元気でしたか?」
「それが……実はシャイロック家の陰謀で、ソレイユ家は没落し、カエデちゃんも別の家に引き取られて、苦労しているみたいだよ」
セイジツ金爵はカエデの窮乏を大げさにかたった。
「なんだって!あの金貸しは母上だけじゃなくて、カエデ姉にまでそんなことを!」
姉のような大切な人を追い詰めたシャイロック家に、改めて怒りが沸き起こる。
「カエデちゃんは、「風の墓場」にいって、お父様であるソレイユ銀爵の保釈金を稼ぐと言っていたよ。アベルも協力してやってくれないかな?」
にこにこと笑いながら、アベルに頼み込む。
「すぐに行きます!」
アベルは慌ててアンデス領に向かうのだった。
(ふふ……今頃行っても、どうせカエデはグールに貪り食われているだろうがな。奴の力なら風の墓場の財宝も取ってこれるだろう。こっちは準備を整えておくか)
セイジツ金爵は配下の軍に対していつでも出動できるように命令を下すのだった。
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