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風の墓場
パーティが終わって数日後、月の光が照らす中、一人の少女が禁断の場所に向かっていた。
アンデス平原の隣、風魔の里の奥ふかくにある『風の墓場』である。
そこに無数に転がる墓石には魔族に魂を売った罪人が葬られているとされて、まともな人間なら近寄らない場所だった。
「ええと……この本によれば、『風の墓場』のダンジョンには、伝説の盗賊『シーフ』が集めた金銀財宝や伝説の武器防具、アイテムが山のようにあるはずです。扉はソレイユ家の祖先に封印されているんですが、その子孫である私には解けるはずです」
墓場の一番奥に卍型の石像が収められて封印されている巨大な扉がある。
「えっと……たしか逆にすればいいんですよね」
封印について書かれている本をみながら、卍の石像をはずして向きを逆にして収める。すると、ゴゴゴ……という重い音と共に扉が開かれた。
「きゃっ!」
中から瘴気の風が出て、カエデのミニスカートも捲り上げた。
「はあ……不気味ですね……」
お嬢さん育ちの彼女にとっては瘴気漂うダンジョンはちびりそうになるくらい怖かったが、これも大好きな父を助けるためだと勇気を奮い起こす。
「絶対に『幼竜の肉』を見つけて見せます」
意を決してスピアを構えて入り、袋をとりだす。
「さあ、シーフよ、扉を開けてもとの持ち主のところに導きなさい」
ピクピクと蠢くグールの手が出て、ダンジョンを案内していった。
カエデは暗いダンジョンを、おっかなびっくりと進む。
ライトの魔法がこめられた魔石をかざして、右手の後についていった。
「きゃっ!」
角を曲がると、ボロボロになったミイラがある。
「……これは、グールでしょうか……気持悪い……」
鎧を着た死体は、カサカサのミイラ状態なのに指だけがまだ動いている。カエデは思わず帰りたくなったが、先に進んでいるグールの右手はちょいちょいと手招きしてくる。
「がまんです……『 幼竜の肉』』があるのは最下層のはず。セイジツおじ様はあれさえ持ってくれば、お父様を釈放できると約束してくれました。冷たいお兄様や家臣たちに頼れない以上、私がしっかりしなければ……」
カエデは暗いダンジョンを進みながら、王都での出来事を思い出していた。
数ヶ月前
王都のソレイユ銀爵家で、母親や他の兄弟たちと何不自由なくすごしていたカエデは、ある朝起きたら兵士に取り囲まれていてびっくりした。
「突撃!家族全員を拘束し、家財を押収するのだ!」
屈強な兵士たちが土足で屋敷に入り込み、自分たちを捕らえて家財を運びだしていく。
「これはどういうことですか!!!!!!!!」
今まで一度も怒ったことがない母親が鬼の顔をして詰め寄るが、指揮する騎士は平然としていた。
「シャイロック宰相の命令である!ソレイユ銀爵の汚職の罪により、改易の上全財産没収の沙汰となった。お前たちも罪人の家族として連れて行く!ひったてい!」
少し前までは貴族である自分たちに触れることすら許されなかった下賎な兵士たちが、高貴な体を縄で縛り上げ、家畜のように追い立てる。
(お父様が汚職……?そんなはずはない。お父様は誠実で心優しく、私たちが頼めばなんでもいうことを聞いてくれた。我が家は豊かで、誰もが幸せに暮らしていた)
今までカエデの人生は、ほとんどソレイユ銀爵家の都邸とその周辺で完結していたといっていい。やさしい父親と母親、そして他の妾たちが生んだ仲のよい兄弟たち、そして世話をしてくれる執事やメイドたちで構成される世界のみだった。
そんな夢のような平和な生活が、一夜にして崩壊してしまったのである。
(シャイロック宰相という者が、お父様を陥れたのね!)
泣き叫ぶ幼い兄弟をみながら、カエデは初めて「憎しみ」という感情を知る。
(許さない!絶対にお父様を助けて、復讐してやる!)
兵士たちに連行されながら、カエデは憎悪に心を焦がしていた。

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