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カエデ・フーマ
そんな彼を、パーティ会場でじっと睨み付けている少女がいた。
彼女は15歳くらいの緑色のやわらかい巻き毛をした優しげな美少女だったが、悔しそうに唇を噛んでいる。
(悔しい……お父様を陥れたシャイロック家の金貸しめ!他の皆様もあんまりです!今までお父様に従っていたのに、あんなよそ者にシッポをふって……)
ギリりと奥歯をかみ締めながら、必死に恨みを飲み込む。
(今は我慢ですわ!あの宝さえ手に入れれば、お父様を牢から解放することも可能!そうしたら、一気に反乱を起こして、アンデス領を取り返してさしあげますわ)
危ない妄想をしているのは、カエデ・フーマ。ソレイユ家の重臣であったフーマ家の長女だが、彼女には重大な秘密があった。
実は、彼女の父はソレイユ銀爵で、ずっと王都で溺愛されて育ってきたのである。
苗字が違うのは正式な子供として認知されておらずに母方の姓を名乗っていたからだったが、そのおかげでソレイユ家の没落に巻き込まれずにすんだのは皮肉というほかはない。
父親が権勢を誇っていたころは、ソレイユ家の姫としてちやほやされていたのだが、ゴールドの領主代行への就任と融和政策により風向きが変わり始めたのを敏感に察知して焦っていた。
そんな彼女に、一人の青年が近づいてくる。
「カエデ。ゴールド様に紹介するぞ。ついてこい」
彼女に命令したのは、兄であるサブロウ・フーマだった。やはり緑色の髪をした美青年である。
「お兄様!誰よりもソレイユ家に忠実だったフーマ家まで、あの金貸しにシッポを振るのですか?」
カエデはキンキン声でサブロウを責め立てるが、彼は平然としていた。
「そのとおりだ。すでにソレイユ家は滅びた。新しき領主が我ら豪族の地位を認めてくれるのならば、我々のほうも誠意を尽くさねばならぬだろう」
サブロウはまだ18歳と若いが、フーマ家の当主として冷静な判断をしていた。
現実を知るものなら彼の行いは不誠実でもなんでもなく、一族を守る為の当然の行動であるということがわかるのだが、カエデには主家を裏切る不実な行動に見える。
「サブロウお兄様は、お父様があんな目にあってなんとも思わないんですか?シャイロック家のせいで、お兄様はソレイユ家を継げなくなったんですよ」
ついに兄に八つ当たりしてしまった。
「正直、なんとも思わない。そもそも最初から私にソレイユ家を継ぐ可能性はゼロだったしな」
「いや、そんなことは!お兄様もソレイユ銀爵家の血を引いているではないですか!」
「何を言っている?私の姓は元々フーマだ。王都で蝶よ花よと育てられたお前とはちがって、この地で育った。アンデス領を豊かにしてくれる領主なら、誰でもいいさ」
王都育ちのカエデとアンデス育ちのサブロウの間には、埋め難い価値観の相違があるようである。
「お兄様は、自分がお父様に愛されなかったからといって、そんなことを!」
「否定はしない。私は跡継ぎ争いが起きないようにと、生まれてすぐに母の実家であるソーマ家に預けられたからな。あいつと会ったのもほんの数回だ。それに、ソレイユ家のほかの坊ちゃんたちからは臣下の子とバカにされ、ずっと屈辱を味あわされてきた。正直、忠義を尽くす義理もない」
サブロウは冷たい笑いを浮かべる。
「だが、いまや立場は逆転した。ソレイユ家は改易されたが、フーマ家はこの地に根をはる豪族として今なお隠然とした力を保っている。お前が釈放されたのも、正式なソレイユ家の一員と認められてなかったからだ」
「くっ……」
カエデは悔しそうに目に涙を浮かべて下を向く。
「お前には、いずれシャイロック家の家臣の方と縁を結んてもらう。そのようにゴールド様にお願いしようと思う」
「いやです!」
カエデははっきりと首を振って、政略結婚を拒否する。
「ならば出て行け。フーマ家とは一つの運命共同体だ。そこに属するものに個人の我侭は認められぬ。この私もフーマ家のためなら泥をすすり命を捧げる覚悟を持って家を継いだ。その覚悟なきものに妹面させて無駄飯を食わすほど、アンデスの地は甘くはない」
そういい捨てて、サブロウはさっさとゴールドの所に行ってしまう。
後には悔し涙をたたえたカエデが残されるのだった。

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