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アンデス高原
王都
王の領地拡大を許可するといった言質を取ったイーグルは、さっそく物色する。
「ふむ。旧ソレイユ銀爵家があったアンデス高原は、かつて伝説の時代に神と魔族が激しく戦ったといわれている土地。神に打ち倒された魔物たちの魔力が石に宿ったため、国内最大の魔石の産地となっているな。一年中冷たい風が吹く寒い土地なので、農業は見込めぬが」
売りに出ている領地の詳しい地図と資料を見ながら、イーグルは考え込む。
「ただし、その分高い買い物になるがな」
財務官僚に査定させた値段は、600万アルほどだった。
(王家と戦うことになれば、この高原に拠点を築けば足止めができる。ここは確保しておかねばなるまい)
少々高い買い物だが、イーグルは購入を決意する。
「ここにはゴールドを領主代行として置こう。奴も為政者として役に立つようになってきたからな」
イーグルはそう決断すると、シャイロック家に手紙を書くのだった。
シャイロック家
イーグルから命令書が来る。
「なになに……アンデス高原を買ったから、そこの代官にゴールド様を置くようにって?」
その命令書を読んだリトネは苦笑する。アンデス高原はまさに真冬の只中で雪に覆われて寒さが厳しいところだとしっていたからだった。
「ゴールド様もかわいそうに……」
そう思いながらも迎えをコロンボ村に派遣する。
一週間後にやってきたゴールドは、どんよりと落ち込んでいた。
「とほほ……なんで私があんな寒いところに……」
よりによって真冬に高原にいかされると聞いて、ゴールドは情けない顔をしていた。
「まあまあ。シャイロック家が発展していると思えばいいじゃないですか」
「……リトネ様はエレメントにいるからそう思うんです。これじゃ左遷みたいですよ……」
ゴールドは涙目になって愚痴るが、左遷などではない。元銀爵家の広大な領地を支配することになるゴールドは、まさにシャイロック家のNO3であった。
ゴールドは次に、リトネの隣にいたナディにも声をかける。
「ナディ、もちろん一緒に来てくれるよな?」
「……寒い。いや」
一言で切り捨てられ、ゴールドは悲しそうに天を仰いだ。
「ううっ……婚約者ができると、父親なんてどうでもよくなるのか……」
「父様、うざい」
いい年して拗ねる父親に、冷たい目を向けるナディだった。
あまりにもゴールドが不憫なので、リトネはお土産をもたせる。
「向こうは寒いと思いますので、これで凌いでください」
そういって長方形のような箱と、透明な液体が入っているタンクを持ってきた。
「これは?」
「えっと……こういう感じで燃料を入れて、芯に火をつけると」
リトネがその箱のようなものに火をつけると、中心部分の金具が真っ赤に輝き、暖かい熱が発せられた。
「リトルレットが修復に成功した製品のひとつで、「石油ストーブ」といいます」
「ほう……」
真っ赤になっている金具の前に手をかざすと、ぽかぽかと暖かかった。
「こっちのタンクに入っているのは燃料ですから、取り扱いに気をつけてくださいね。火がつきますから」
ゴールドにくれぐれも取り扱いを注意するように忠告する。
「ありがとうございます。これでアンデス高原の寒さにも耐えられそうです」
ゴールドはやっと重い腰を上げて、領主代行として赴任することを受け入れた。
「向こうにいったら、これを地元の有力者の懐柔に使ってください。希望者には格安で販売しようと思います。シャイロック家は忠誠を尽くすものには充分な見返りをもたらすことがわかれば、旧ソレイユ銀爵家の家臣たちも納得させることができるでしょう」
リトネの言葉に、ゴールドは頷く。彼の役目は長年ソレイユ家に仕えていた者たちをシャイロック家に従わせ、融和させることにあるのである。その困難さは予想できた。
覚悟を決めた顔をするゴールドに、リトネはささやく。
(それでも……どうしても懐かないようでしたら、これを使ってください)
何かが入った包みをそっと渡す。
(これは?)
(夜のお供に最適なモノです。どんな寒い日でも、これと一緒に布団にはいったら、ぽっかぽか)
リトネがにやけた顔をしているので、ゴールドははっと気づく。
「ま、まさか!あの門外不出のアレを……リトネ様!ありがとうございます!」
感極まっておもわずリトネに抱きつこうとしたが、その間にすっと杖が差し込まれた。
「……それは何?」
今まで黙ってみていたナディが冷たい目をして聞いてくる。
「べ、べつにたいしたものじゃ……」
「そうだぞ。男には必要なものというか……あっ、こら!やめなさい!」
ナディは二人がひるんだ隙に包みを奪って紐を解いた。

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