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長の遺言
冒険者ギルド。
なんとか回復した冒険者たちは、アベルを追って『針の山』まで来ていた。
「あのやろう、ぶっ殺してやる!」
「この山に向かったはずだけど……なんだ?」
山に入った冒険者たちは驚愕する。あたりには小ねずみたちの死体が転がっていたからである。
「チ……チューーー」
他にも、傷ついた小ねずみも倒れている。
「お、おい、しっかりしろ。ポーションをもってこい!」
「町から治療ができる魔法使いをありったけ連れてくるんだ!」
慌てて冒険者たちはグレートハリネズミたちの治療に取り掛かる。
「がんばって!」
白姫ノルンは治療魔法の使いすぎで今にも倒れそうだったが、それでも治療を続ける。
「こんな小さな子まで……」
白姫ノルンの腕の中にいる赤ちゃんネズミを見て、冒険者たちは怒りに震えた。彼らはいわば猟師であり、自らの生活を支えてくれる魔物たちに対してある種の敬意を持っている。
魔物を狩るときでも成体の雄をメインに狙っており、妊娠中や子連れの雌は絶対狙わない。まして子供の魔物を狩るなど冒険者としての道を外れた外道だと思われている。子供を狩ったら獲物が少なくなって、将来自分たちの首を絞めるということを身にしみてわかっているからだった。
「おい!見ろよ。ネズミたちの針が手付かずだぜ!」
「針がほしいんじゃなかったのか?だったら、何でこいつらを殺したんだ……」
さらに、ネズミたちの死体をみていぶかる。
そのとき、不機嫌な顔をしているゴローが口を開いた。
「……おそらく、ただ自分が強くなるためだけに殺したんだろう」
それを聞いて冒険者たちはシーンとなる。たしかに魔物を殺して魔力を吸収して強くなるという方法もある。だが、それは決して冒険者として目的にしてはいけないとされていた。
魔物を殺すのはあくまで生きていく糧を得るための生存競争であり、自らのレベルアップのためだけに殺戮をし、その肉も放置するというのは魔物にとって最大の侮辱である。冒険者たちにとっても、狩りという魔物との神聖な行為を汚された思いをしていた。
「あの糞野郎を探せ!」
「いないぞ!どこにいった!」
怒り心頭に達した冒険者たちが探し回るが、アベルはどこにもいない。
一緒になって探していた白姫ノルンのメンバーたちは、頂上付近の祠の近くで瀕死のハリネズミを見つけた。
「おじいちゃん!」
慌ててノルンが駆け寄ると、長はうっすらと目をあける。
『……ノルン殿か?』
「おじいちゃん!しっかりして!ヒール!」
ノルンはなきながら長にヒールをかける。彼女にとって長は、駆け出しの頃に針を分けてもらった恩があった。彼の太くて鋭い針で作った杖は、今でも彼女の愛用品である。
「ヒール!ヒール!なんできかないの!」
涙を流して治療魔法をかけるノルンに、長は優しく微笑む。
『……残念ながら、ワシはもう致命傷を負った。魔力も奪われ……死を待つのみじゃ』
「いや!」
子供のように駄々をこねるノルンに、長は話し続ける。
『聞いてくれ……あの偽勇者に、『天竜の兜』を奪われてしまった。我が一族が勇者アルテミック様から預かり、守り通してきたのに……頼む。兜を正当な持ち主に……」
「わかったから!無理しないで!」
泣いてすがりついてくるノルンの手を、長は優しく触れる。
『兜を取り返して、勇者の正当後継者、リトネ様に……頼んだぞ」
そして、長は息を引き取った。
「おじいちゃん!」
長の死体に取りすがってノルンは泣く。
ケインとゴローも、目に涙を溜めて長の遺体に一礼するのだった。

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