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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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重力

次の日
リトネはテンションMAXでマザーの元を訪れた。
「師匠!はやく修業に行きましょう!」
スキップでも踏みそうなほど明るい顔をしている。
(まずいの……なにか変な性癖にで目覚めたのかの?)
あまりにリトネの明るさにちょっと引きながら、マザーは話しはじめた。
「まあ待て。次の『虚竜拳』に移る段階が一番難しいのじゃ。ただの人間から神に近い存在になるための第一歩だからのう」
リトネを座らせて、黒板にチョークで図を書き始める。
「そもそも『剛竜拳』『柔竜拳』は、ともに人体の内部の『気』を使う技じゃ。これでは一対一では無双になれても、大軍には勝てん。大軍に囲まれてはいずれ体内の気力が尽きて倒されてしまう」
マザーの説明に、リトネはうなずく。実際にシャイロック軍と戦って敗北したからである。
「人間の中にも勇者になれる才能を持つものはおる。だが、ほとんどの者が勇者になれずにただの強者で終わるのは、個人的な武勇を手に入れた時点でコツをつかんだと思って、自分の内部強化のみにこだわって肉体強化や魔力強化に血道をあけるからじゃ。じゃが、所詮人間。限界はある。100人を倒せても1000人は無理じゃ。お主にはまず、人間個人の力には限界があり、どれだけ鍛えても今までのやり方では先には進めないということを知ってほしかった。だから軍をけしかけたのじゃ。少々荒療治じゃったがのう」
「……いえ。あの敗北は貴重な経験になりました。いくら強くなったつもりでも、所詮大軍には勝てないことを思い知りました。思い上がっていた自分が恥ずかしいです。実戦で同じことをされていたらと思うと…苛めじゃすまないですからね」
リトネはそういって反省する。
「そうか。ならば、いよいよ人間を超えた、真の勇者というものになるための修業を開始するぞ」
マザーの言葉に、リトネは姿勢を正した。
「次の段階では、大自然そのものの『気』とつながることが必要じゃ」
黒板に書かれた人体に、外から矢印でエネルギーが取り入れられる様子を書く。
「大自然そのものの気?」
「ああ。人間の言葉で説明するのは非常に難しい。感覚的なものじゃからな。我ら竜族や魔族、魔物の一部では自然にこの感覚をそなえておるのじゃがな」
マザーは難しい顔で、リトネが取り寄せた物理学の本を読む。『気』は物理的な力ではないので、基本的には物理に従っている存在である人間に理解させるのは難しかった。
「まあよい。なんとかしてみよう。次の『虚竜拳』とは、重さを自在に操る技じゃ。じゅうりょくコントロールとでも言えばわかりやすいかの?」
黒縁メガネをかけた女教師のコスプレしたマザーが首をかしげる。
しかし、リトネはその説明で何がいいたいかわかった。
「ああ、なんとなくわかるような気がします。重力は自然の理の一種だから、自分の内部だけの問題じゃない。それを支配できるようになれってことですよね」
「うん。まあそんな感じじゃ」
まるで禅問答のような会話が続いていく。
「お主がより寄せた物理学とかの本を読んでみたが、一部誤解があるようじゃのう。重力というものを、引き寄せる力と解釈しておる」
本をパラパラとめくりながら、マザーがつぶやく。
「え?重力って引力のことじゃ?」
「少なくともこの世界では違うのう。むしろ、その逆の押し付ける力のことじゃ」
「え?」
マザーが何をいっているのか、リトネはわからなかった。
「つまり、無理やり説明してみるとじゃ」
マザーは黒板にボールが入った水槽の絵を描く。
「このボールにかかる水圧は、引き寄せる力か?押し付ける力か?」
「それは、水を押しのけた分の圧力がかかるので、押し付ける力でしょう」
リトネの言葉に、マザーはうなずく。
「それとおなじじゃ。空間に物体が存在するとその分だけ空間が押し広げられる。当然、周囲の空間からの圧力がかかる。これが重力とやらじゃ。巨大な星はその分だけ押しのける空間の量も多いので、押し付けられる力も増す。密度が高い物質はその分だけ押しのける空間の率も高いので、やはり重力が増す。少なくともこの世界の理はこのようになっておる」
「なるほど……一理ありますね」
エセ科学っほい説明だったが、なんとかリトネは納得する。
「大自然の物質には、すべて空間に干渉する力がある。それが重さとなって表れているのじゃが、体の空間干渉係数を『気』によって下げれば、どこまでも軽くなることができる。その逆に上げれば重くすることもな。己を虚にして大自然と一体となるのじゃ」
「わかりました」
リトネはその場に座禅を組み、瞑想を始める。
「……何をしておるのじゃ?」
「え?大自然と一体になるって、こういうことでは?」
座ったまま白目をむいて、ひたすら自分を無にしているリトネに、マザは呆れる。
「たわけ!そんな怠けた修業で厳しい大自然の極意が掴めるか!さあ、修業にいくぞ!」
マザーに頭をつかまれて、『巨豚の丘』に連れて行かれるリトネだった。
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