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宝
「風が弱くなった……」
「入ってくる砂も少なくなった……」
砂防壁に囲まれたアリアの中では、かなり状況が改善される。飛んでくる砂も減り、強い風が吹いてもテントを吹き飛ばすほどのものではなくなった。
「リトネ様……ありがとうございます」
アリアの市民たちは、自分たちを守る壁を作ってくれたリトネに感謝する。
「後は一番外側に布を張ってその間に砂をいれ、タイヤを完全に覆うようにして下さい。夏になって気温が上がりすぎると火災が起きるかもしれませんから。あと、タイヤの内側にも砂袋を入れてさらに固定してください」
「わかりました!勇者様に作っていただいた壁を、私たちが守らせていただきます」
アッシリア家の遺臣や民たちは、土下座してリトネに感謝を捧げるのだった。
イーグルはアッシリア家の執務室で、これからの処置を悩んでいた。
(代官アクターはリトネ殺害未遂の罪で死罪。それに従った兵士は減給の上王都に帰還させて、とりあえずアッシリア領は遺臣たちに任せよう。だが、アッシリア家の再興と借金はどうするか)
イーグルを悩ませているのは、アッシリア家の借金問題であった。
「再興自体はすぐにでもできよう。トーラという娘をリトネの第三夫人にすれば、わが家の寄り子として体裁も立つ。だが、アッシリア領は砂しかない貧しい土地。借金を肩代わりして国から買い取っても……)
アッシリア領という、はっきり言えばお荷物を抱え込むことについて考え込む。
(じゃが、すでにトーラとリトネの婚約は既成事実であるかのように、民もアッシリア家の遺臣たちも思って、リトネを慕っておる。もし兵士として召集をかけた場合、彼らはリトネの為なら命がけで戦うであろう。将来国からの自立をしなければならない場合を考えると、わが家の勢力が増すのは望ましい……ぐぬぬ)
このまま平和な時代が続くとなればお荷物だが、戦乱の世となれば砂漠の民の戦力は貴重である。
いくら考えても結論がでず、イーグルはリトネに相談することにした。
「……というわけだ。貴様の意見を聞きたい。アッシリア家の借金を当家が肩代わりして、この地を手に入れる価値があるとおもうか?」
イーグルの問いかけに、リトネはあっさりと答えた。
「それはもちろん、我が家がこの地を押さえておくべきでしょう。ここにはとんでもない宝が埋まっています」
「『宝』だと?」
首をかしげるイーグルに向かって、リトネはにっこりと笑う。
「もちろん、今は誰にも見向きもされないどころか、むしろ害をもたらすものでしょう。しかし、時代が代われば、それを制するものは世界をも支配することになります」
「そ、それはまことか?」
思わずイーグルは椅子から立ち上がる。
「それは何だ?金か?銀か?それとも魔石か?」
あせって聞いてくるイーグルを、リトネは押しとどめる。
「……ちょうどいい。今からリトルレットと一緒に確かめにいこうと思っていました。おじい様もきてください」
リトネはイーグルを連れて、アリアの町の外にでる。
そこには巨大な鉄の車が止まっていた。
「こ、これはなんじゃ?」
初めてみる巨大な車に、イーグルはちょっと怖くなる。
「あはは。大丈夫だよ爺ちゃん。これは『自動車』という乗り物だから」
運転席から顔を出したのは、リトルレットだった。
「リトネ君、ちゃんと借りてきてくれた?」
「ああ。これだろ?もう湖はだいぶ綺麗になったからって、快く貸してくれたよ」
リトネが袋から取り出したのは、『聖なる水瓶』である。
「そんなもので、何をするんじゃ?」
「それはこれからのお楽しみですよ。それじゃ、いきましょう」
イーグルを乗せて、三人は湖の反対側にあるピラミッドまでドライブするのだった。
一時間ほどでビラミッドに到着する。
今は無人だったが、黒い巨大な建造物は威圧感を放っていた。
「おじい様、つきましたよ」
後部座席にいるイーグルに声をかける。
「う、うむ。この自動車というものはすごいものじゃのう。これだけ早く走れて馬も必要ないとは」
イーグルは初めて乗った自動車に感動していた。
「もうトカゲやサソリはいないと思うけど、念のために俺の後ろにいてください。リトルレットは最後を頼むよ」
「任せて」
リトネとリトルレットに守られながら、ビラミッドの階段を上る。
幸い、途中で魔物に襲われることもなく最上階に到達した。
「うっ……この匂いはなんじゃ」
最上階に入ったイーグルが鼻を押さえる。石づくりの部屋の中は黒い水のようなもので染まっており、なんともいえない匂いが立ち上っていた。
「石油の匂いですよ」
「石油じゃと?それはなんじゃ」
「この世界では『糞水』と呼ばれている、燃える水です。それじゃ、試してみましょう」
そういいながら、リトネは『聖なる水瓶』を祭壇にセットする。
しばらくすると、勢いよく黒い水が湧き上がってきた。
「思ったとおりだ!この水瓶は地下水をくみ上げる秘宝。ということは、この地下には油田があるんだ!これがあれば簡単に油田を見つけられるぞ!」
「やったね!リトネ君!」
自動車やバイクを解析することで、石油の価値を知っていたリトルレットも喜ぶ。
「ああ、これでエネルギー問題は解決だ!」
手を取り合って喜ぶ二人を見て、イーグルはずっと首をかしげていた。
「実は、この黒い水はさっきの自動車を動かすエネルギーになるんです」
大きなペットボトルに石油を入れたリトネが、イーグルに説明する。
「ほう……こんなものがのう」
「今から試してみます。リトルレット、お願い」
「うん。『錬金』」
リトルレットが杖を振ると、ペットボトルの中の水が黒い部分と透明な部分に分かれる。
「これを慎重に自動車に移して…」
スポイトで透明なガソリンの部分を吸い取り、自動車の給油口に入れる。
かなり減っていたガソリンメーターが、もとの満タンの部分にまで戻った。
「これでまた数百キロは走れるようになります」
リトネの説明にイーグルは感心する。
「ううむ……たしかに燃料になるようじゃ」
「それだけじゃないよ。ボクが修復した『発電機』の燃料にもなるから、これて雷の魔石を大量に作れるよ。これでやっと「クーラー」とか「冷蔵庫」を実家に送れるよ!」
雷の魔石の量産が可能になり、リトルレットは喜んでいた。
イーグルは自動車を見ながら、じっと考え込む。
(ふむ……馬の何倍もスピードと力がある車を、たったあれだけの燃料で動かせることができるとは。しかも鉄で囲われており、矢も防げる。これが大量に用意できると、どれだけ戦争が有利になるか)
自動車の有効性を実感したイーグルの中に、新たな思いがわき上がってくる。
(これがあれば……リトネに天下を取らすことができるかもしれん)
イーグルの脳裏に、王冠をかぶったリトネの成長した姿が浮かぶ。
(おお……なんと凛々しいではないか!決めた!ワシの余生は孫の礎になることに捧げよう)
ひそかに決意するイーグルの隣で、リトネとリトルレットはこれで電化製品が使えるようになると喜ぶのだった。

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