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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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真実と現実

「ふぁぁ……変なことになっちまったな。こんな砂漠の真ん中で、仇と一つの車で寝ているなんて」
そうつぶやきながら、男は用を足す。
ちょうど終わったところで、リトネに後ろから首をつかまれ、片手で持ちあげられた。
「……静かにしてください。みんなが起きてしまいます」
口調は丁寧だが、声には怒りが込められている。
小柄な少年なのに大の大人を軽々と持ちあげ、喉を締め付ける指は鋼のように硬かった。
「……お手間は取らせません。すべてを話していただけますか?」
静かな口調で脅してくる少年に、男は心底恐怖を感じてコクコクとうなずく。
「なら、聞かせてもらいましょう」
リトネは男をひきずって、トラックから離れるのだった。

「す、すいません、リンさんとメイドさんをさらったのは俺たちです。メイドをさらって坊ちゃんを砂漠に誘き寄せて、捕虜にしたらシャイロック家と交渉ができると思ったんです」
リトネに子供のように軽々と運ばれて恐怖を感じた男は、あっさりとすべてを告白する。
「金目当てで?」
「い、いいえ!アッシリア大騎士家の再興のためです!宰相イーグルも大事な跡取りを救うためなら、領地を返さざるをえなくなると思ったんです」
男の自白を聞きながら、リトネはあきれてしまった。
「なんていうか……短絡的ですね。仮にそんな計画がうまくいっても、今後はどうするつもりだったんですか?おじい様はやられたことはキッチリ報復されるお方。ロスタニカ王国の西部を支配するシャイロック家と敵対して、家が維持できると思うのですか?」
「そ、それは……」
主家を再興することしか頭になかったその家臣は、口ごもる。
「王都や各領に通じる街道をすべてシャイロック家とその傘下の貴族家に封鎖されて、あなた方は領都アリアに孤立し、飢え死にするだけですよ」
「そ、そんな……」
その家臣はがっくりと肩を降ろした。
「……納得したなら、芝居はやめて、リンを返してください」
リトネが鋭く責めると、その家臣は大きく首を振った。
「そ、それが、本当にリンというメイドは『砂漠の黒炎』に連れ去られてしまったのです!返したくても返せません」
「……」
リトネに冷たい目で見られ、その家臣は死に物狂いで弁解した。
「嘘じゃありません!こうなったら、我々は命がけでメイドさんたちを救出してお返しします!」
必死に頭をさげる男を見て、リトネはしぶしぶ矛を収めた。
「……わかりました。一度だけは許してあげましょう。その代わり、嘘だったら」
「は、はい。我らの命をささげて償いとさせていただきます」
男はそういって土下座した。

次の日
一行は領都アリアに到着する。
アッシリア湖のそばに作られた中規模の町だったが、大きな火災があったのかところどころ町が焼けていた。
多くの民がやせ細り、焼け焦げた廃墟に座り込んでいる。
見慣れない大きな鉄の車を見て、彼らが群がってきた。
「お恵みください!裕福な貴族様!」
「子供はもう二日もきれいな水を飲んでいません!」
「お願いします!水をください」
ガリガリに痩せて幽鬼のような人々に取り囲まれ、さすがのリトネも怖くなる。
「な、なんだこれは……」
「昨日はご高説どうもありがとうよ。だが、同じ事をこいつらに向かっていえるのか!」
助手席でトーラがリトネに向かって怒鳴る。軍用トラックは群集に囲まれて、身動きも取れない状態だった。
「彼らは……どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもねえよ!あたいの親父が借金をしたのは、ちょっと前に大火災があって民が焼け出されたのを救ったからだよ!それをてめえは借金借金と責め立てやがって!」
「……」
「それを因縁つけられてアッシリア家が改易されたせいで、このあたりは無法地帯も同様になっちまった。多くの盗賊が砂漠を跋扈し、交易商人を襲うせいで食べ物がはいってこねえ!」
「……で、でも、代わりに王国から代官と兵士たちが派遣されてきたんじゃ?」
リトネが言い返すと、トーラは心底軽蔑するような目を向けてきた。
「馬鹿が!やっばり貴族の坊ちゃんだな。現実のことを何もしらねえ!この土地に愛着があるアッシリア家の者なら命がけで民を守ろうとするが、王都からきた代官や兵士がそんな気になるかよ!
やつらはこの地に左遷されてきたものだ!だから民から絞り上げることしか考えてないのさ!」
トーラから突きつけられた事実に、今度はリトネが言葉を失う。
イーグルやリトネが掲げる現実とはまた違った現実が確かにここにあった。
「『砂漠の黒炎』は湖の反対側にある古代遺跡『ピラミッド』を根城にして、そこから黒い油である『糞水』を湧き出させてアッシリア湖を汚した。残る水源は領主の館にしかないが、王都から来た代官アクターはその水を独占して高値で売っている。食べ物もねえ、水もねえでどうしろってんだ」
「……すみません。そのような代官を派遣してしまったのは、確かに祖父の過ちでした」
リトネは素直に頭を下げる。
「ふん!どいつが来ても一緒だったよ。この土地の事情はよそ者にはわからんさ。ここで砂漠の過酷さを民と等しく感じて育った者じゃないと、まともに治められないのさ!」
トーラがそういう間に、大勢の馬に乗った兵士たち群集を蹴散らしながらやってきた。
「貴様たち!何者だ!怪しい車にのってきやがって!」
やってきた兵士たちは下品に怒鳴りつける。
「交易商人か?なら、まず代官アクター様のところに出頭せよ!しかるべき税を納めるがいい!」
兵士たちの隊長はそう居丈高に言い放った。
「……どうするんだ?」
「やつらの望みどおり、代官のところに行きましょう」
リトネはそういって、トラックのアクセルを踏む。
「な、なんだ!わわっ!」
前をふさいでいた馬が、いきなり動き出してきた鉄の巨獣のうなり声におびえて道を開ける。
リトネたちを乗せた軍用トラックは、代官所になっている元アッシリア邸に向かって進んでいった。

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