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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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恨みと正論

夜になり、砂漠の冷気が忍び寄ってくる。
アッシリア家の遺臣たちは後部で寝て、リトネは運転席で寝ていた。
「……リン。必ず助けるから」
そうつぶやくリトネに、隣にいる人物が話しかけてくる。
「……心配なのかい?」
「ええ」
リトネは短く返すが、その一言には実感が篭っていた。
それを感じ取り、助手席で寝ていたトーラは罪悪感を感じる。
「どうしてそこまであの少女に執着するんだい?ただのメイドだろ?あきらめたらどうだい?」
「俺にとってはただのメイドじゃないんですよ。本当の妹だと思っていますから」
リトネは昔の平民時代からそばにいてくれた、何者にもかえがたい彼女だと語った。
「へえ……あんた、昔は平民だったのかい。どおりで……」
トーラは納得する。リトネは貴族にしてはあまりにも腰が低すぎた。思い上がった貴族の馬鹿坊ちゃんだと勝手に思い込んでいたトーラは、そのことに違和感を感じていたのである。
貴族の一員とはいえ金爵家に比べればはるかに平民に近い大騎士の娘だったトーラは、リトネの昔話を聞いて親近感を持った。
同時に、そんな人間が金爵家の跡継ぎとして認められていることを不思議に思う。
「あんた、貴族の坊ちゃんやってて、窮屈だと思ったことはないのか?」
「まあ、多少はそう思いますが、そこは我慢しないと。俺がシャイロック金爵家の跡取りをしていないと、みんなが困りますからね。頑張っておじい様の後を継がないと」
そういって明るく笑うリトネ。
自分の祖父イーグルを尊敬している様子に、トーラはむっとなった。
「何が金爵家だ。あんたも所詮は貴族の金と地位に目をくらんでいるだけか!」
「えっ?」
「教えてやるよ。あんたの爺さんは、あたいの家を理不尽に潰しやがったんだよ!」
トーラは激情のままに、今まで胸の中に溜まっていた恨みをリトネに吐き出した。

「そういうわけで、あんたの爺さんは因縁をつけてきて、あたいたちの大事な居場所を奪ったんだ!あんたの爺さんのせいで、アッシリア家の領地は没収されて、家族は全員窮屈な王都に移住させられて、親父はすずめの涙程度の薄給でこきつかわれて、家臣はみんな首になって散り散りになって……親父に謝れ!あたいに謝れ!家臣たちに謝れ!」
トーラは延々と恨み言をいいつづける。いつのまにか、その頬には涙が伝っていた。
ずっと黙って聞いていたリトネだったが、聞き終えると厳しい声で告げた。
「先生や家臣様には同情します。しかし、私は謝るつもりも、祖父が非道を成したとも思っていません。アッシリア大騎士家が改易になったのは、当然で公平な裁定でしょう」
トーラは冷たく言われて、気色ばんだ。
「なんでだよ!」
「先生は先ほど、祖父が因縁をつけてきたといおっしゃいました。どういったものですか?」
「そ、そりゃ、我が家の借金を国に押し付けたって、根も葉もない言いがかりだろうが!親父は時間かかってもちゃんと返すつもりだったんだ!」
「金利も払わず、返済期限も決めず、担保も提供せずにですか?」
リトネの声は限りなく冷たい。
「そ、それは……なんだよ!国は金持ちなんだから、それくらいいいだろ!こっちは商人たちに金利を絞り上げられて、年中困っていたんだ!」
金持ちだから、困っている自分たちを助けてくれてもいいだろうという理屈に、リトネは反論する。
「なら、あなたは困っている民に無利子・無担保・返済期限なしで大金を貸したことがありますか?」
いきなり自分のことを言われて、トーラは口ごもる。
「そ、それは……ないけど」
「国は金持ちなどではありませんよ。もし国に借金を押し付けて、国が成り立たなくなったらどうしますか?国は無限に金貨をうみ出す魔法の袋を持っているわけではありません。借金を押し付けられたら困るのは、国も同じです。祖父から聞きましたが、財政破綻一歩手前だったそうですよ」
「そ、そうなのか?」
今まで考えもしなかったことをいわれて、トーラは動揺する。
「ええ。現に小さな国であるともいえる、アッシリア領でもお金が足りなくなったではないですか。規模が大きくなっただけで、ロスタニカ王国だって同じことです」
「……」
当然のことを言われて、トーラは沈黙する。
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