96/205
鍋パーティ
夕方
リンたちをさらった『砂漠の黒炎』を追いかけていたリトネに、トーラがわめく。
「いい加減に止まれ!」
「でも!」
一秒でも惜しいといった様子のリトネを一発殴りつける。
「やつらは砂漠のモンスターを手なづけているんだ!公道を外れた砂山でも平気で移動できるから、直線距離でアリアを目指せる。どの道追いつけねえよ!」
トーラに言われて、リトネはしぶしぶトラックを止める。
トーラは止まった瞬間、転がるようにトラックから飛び降りて砂漠の夕闇に消えた。
「先生!どこに?離れたら危ないですよ!」
「うるせえ!宝石探しだ!」
闇の中からトーラの焦った声が聞こえてくる。それを聞いて、リトネは首をかしげた。
「宝石探しって?なんだ?」
その疑問に、降りてきたアッシリア家の遺臣が苦笑しながら答えた。
「ふふ。我ら砂漠の民は、砂漠を旅しているとたまに宝石の原石を手に入れることがあります。だから、宝石探しなんですよ」
「えっ?」
「わかりませぬか?花の代わりに宝石を摘むということで……」
「あ、ああ」
ようやく彼らが言わんとしていたことがわかり、頭をかくリトネだった。
「ちょうどいい。食事としましょう」
ポーションを飲んでかなり回復した彼らが、そう提案してくる。。
「でも……こうしている間にもリンが……」
リンのことを心配しているリトネを彼らは慰める。
「大丈夫ですよ。奴らも元は砂漠の民。さすがに少女を痛めつけるといった外道を行うことはないでしょう。大事な人質ですし」
「……」
「いざ奴らと戦うときに、万全の力を出せるようにしっかりと食べて寝ておくことも大事です」
彼らに諭されて、リトネも少し落ち着きを取り戻す。
「そうですね。明日はやつらの本拠地に殴りこみだ。体力を回復しておかないと」
「その意気ですぞ。では、食事の準備を始めましょう」
アッシリア家の遺臣たちは、手際よく食事の準備にかかる。
満天の星と満月が輝く空の下で、奇妙なパーティが開かれようとしていた。
宝石探しから帰ってきたトーラは目を丸くする。
自分の部下とリトネが仲良く食事の支度をしていたからだ。
「おいおい、お前たち……」
とがめようとしたトーラに、リトネから声がかかる。
「ちようどよかった。先生、火をつけてください」
見ると、すでに竈が用意されて、大きな鍋が載っていた。
「しょうがねえなぁ……『燃焼拳』」
トーラが拳を振ると、薪が勢いよく燃え上がる。
「さすがです。先生」
「いいってことよ……あれ?なんで俺こんなことしているんだろう」
トーラの困惑をよそに、鍋から美味しそうな匂いが湧き上がる。
「へえ……いい匂いだな」
「砂漠の夜は冷えますからね。できるだけの食材を用意して、体があったまるものを作ったんですよ。「おでん」という料理です。みんなにも手伝ってもらいました」
「へえ……どれどれ」
興味をもったトーラが、ぐつぐつと煮立っている鍋からよそって食べてみる。
「美味い!って、これ卵じゃねえか!」
「ええ。我が家では卵を産む家畜を飼っているんですよ。ほら、この肉がそうです」
煮込んで柔らかくなった何かの肉を食べてみると、これも美味だった。
「シャイロック家って、贅沢しているんだなぁ……本当にうまい」
アッシリア家の遺臣たちとリトネで、鍋パーティが開かれる。
彼らは食べたこともない美味しい料理を腹いっぱい平らげて、満足するのだった。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。