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砂漠の黒炎
そのころ、リンとネリーを奪った「砂漠の黒炎」の一団は、領都アリアに向かっていた。彼らが乗っているのは、砂漠に適応したCランクモンスターである大きな黒サソリや、炎を吐くトカゲである。
「ヒャッハー!」
「負け犬アッシリアの残党どもを蹴散らしてやったぜ!」
トカゲやサソリは砂の上でも沈まず、高速で移動できる。そのおかげで馬車だと何日もかかる砂漠を最短距離で走りぬいて、一日で領都アリアに着くことができた。
そこは、砂漠にぽつんと存在する湖のそばにできたオアシスである。
しかし、その湖は汚染され、オアシスの住人たちは飢えと乾きに苦しんでいた。
最近になって領都アリアと湖を挟んだ反対側に古代から建っている黒いピラミッドから、真っ黒い水が流れてきて湖を汚しているからだった。
砂漠の黒炎の一団は領都に入らず、彼らの本拠地としているピラミッドに入っていく。
彼らは乗っていたモンスターたちに黒い水を飲ませてやる。
美味しそうに水を飲む彼らを、彼らは頼もしそうに見た。
「しかし、『糞水』でこいつらを手なづけられるとはな!」
「姉御に従ってよかったぜ!こいつらのおかげで、略奪し放題だぜ!」
彼らはギャハハと下品な声を上げる。もともと砂漠を根城にしている小さな盗賊だった彼らは、ある日ふらっと現れた女を襲ったが、彼女はすさまじい炎魔法の使い手で、逆に返り討ちにあってボスが殺されてしまった。
真っ赤な目と赤い髪を持った女は、命乞いをする彼らを従え、新たに『砂漠の黒炎』を結成したのである。
その女が薄汚い水瓶をピラミッド奥にある祭壇にささげたとたん、糞水と言われる黒くて臭い水が湧き出してきた。それを砂漠にいるCランクモンスターであるトカゲとサソリに与えると、彼らを従えることができたのである。
今では領都アリアを含む一帯の交易路を支配しているといっても過言ではなかった。
黒サソリたちに糞水をたっぷり与えたあと、盗賊たちは略奪した袋を開ける。
袋からは泣き腫らしたリンと、厳しい顔をしたネリーが出てきた。
「ここは……おじさんたちは?」
周囲にひげもぢゃの怖そうな男たちが取り囲んでいたので、リンは恐怖に震える。
「へえ……可愛いじゃねえか。さすがシャイロック家のぼっちゃんのメイドだぜ!」
「もう五年もすりゃ、さぞかし高く売れるんだろうなぁ」
男たちはリンをなぶるように笑い声を上げる。
しかし、その前に大きいほうのメイドが立ちはだかった。
「下がりなさい!下賎なものたちよ!」
メイド長ネリーは杖を構えて、男たちを威嚇する。
その時、高い声が伝声管から響き渡った。
「お前たち、何をぐずぐすしているんだい?さっさとそいつらを連れて来い!」
それを聞いた途端、男たちは笑うのをやめ、リンとネリーをピラミッドの最上階に連れて行く。
そこには黒い水が湧き出る水瓶が安置されている祭壇があり、豪華な服を着て、胸から赤いルビーのペンダントを下げた若い女がいた。
「ちゃんとつれてきたかい?」
「へえ。スネミ様。シャイロック家の跡継ぎお気に入りのメイドでさぁ。たっぷり身代金をせしめることができますぜ」
男たちが卑屈に揉み手をしながら、二人の背中を押す。
すると、スネミと呼ばれた女はネリーの顔に釘付けとなった。
「あんたは……?」
「我が名はネリー。シャイロック家に仕えるメイド長です」
高貴な人に仕える者がもつ迫力を感じる。
その顔をしげしげと見ながら、スネミは首をかしげた。
「あれ?まあいいや」
自分とそっくりな顔をしていたので疑問に思うが、とりあえずスルーする。
スネミは次にリンに話しかける。
「……アンタの名前は?」
「……リン」
リンは恐怖に震えながら答える。
「ふーん。まあたしかに可愛い顔はしているが、ただの小娘だね。『炎のルビー』はなんでこいつらをさらえって言ったのか……あちっ!」
リンに手を触れた瞬間、叫び声を上げて胸のあたりをかきむしる。
ペンダントからひとりでに炎が出て、彼女の胸をちょっと焼いたのだった。
「……手をだすなってことかい。わかったよ。この二人は牢に入れておけ」
それを聞いて、リンは不安のあまりネリーに身を摺り寄せる。
「ネリー様……」
「大丈夫ですよ。きっとリトネ様が助けに来てくれます」
リンの頭をなでて、にっこりと笑う。二人は男たちに連れて行かれるた。
一人になったスネミは、ペンダントに語りかけた。
「なあ相棒。これからも力を貸してくれよ。いずれ俺が世界を支配できるようにな」
彼女の胸に輝くルビーのペンダントは、それに答えるように赤く輝いていた。

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