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トラック
夜
リトネは城をこっそりと抜け出す。街壁の外では、トーラとその仲間の御者が待っていた。
「よくきたな。さあ、いこうぜ」
食料や水をたっぶりと積んだ馬車で出発するが、リトネが近くの洞窟に寄るように指示する。
「先生はちょっと待っていてください」
そういうなり、リトネは洞窟の奥に入っていった。
「こんな所にきて、どうしようってんだ?ま、慌てることはないか。どんなに急いだって絶対においつけねえし」
一日早く仲間が出発しているので、どんなに早い馬車も追いつけないと思っているトーラの耳に、ブロロロローーーーーという音が響いてくる。
「な、なんだ!魔物のうなり声か?」
トーラはびっくりして警戒するが、洞窟の奥から出てきた物体にあんぐりと口をあける。
それは、鉄でできた巨大な車だった。
「お待たせしました」
リトネは運転席から顔をだして言う。トーラは震えながら聞いた。
「こ。これは?」
「ああ。婚約者に修復してもらった「自動車」ですよ。馬車より早く安全です。さあ、いきましょう。と、その前に、荷物を積み代えないと」
軍用トラックの中にいたリトネが降りてきて、荷台に荷物を積む。
その様子をトーラは呆然と見ていた。
(な、なんだこの化け物は……車なのか?で、でも、さっき馬が引いていないのに動いていた)
(ひ、姫御~俺たち、とんでもない奴を相手にしているんじゃ?)
御者の筋肉ムキムキの男が情けない声をあげる。彼はアッシリア家の遺臣の中でもトーラに継ぐ腕っ節の持ち主で、いざとなれば二人がかりでリトネを砂漠に置き去りにして、弱らせてから拘束するつもりだったが、見たこともない鉄の車を操るリトネに完全にびびっていた。
(わ、わかっているよ。だけど、もう後には引けねえんだ。こうなったら腹くくれ)
そういって覚悟を促すが、リトネから声がかかる。
「御者さんは先に戻っていてください。ここからは先生と俺で行きます」
「い、いや、何かあったときの為に、人数が多いほうが……」
渋るトーラだったが、リトネはなおも続ける。
「この『自動車』の運転……御者は俺しかできません。それに、馬を放置しておけないでしょう」
そういわれて、トーラは沈黙する。確かにリトネの言うとおりだった。
「それじゃ姫御!がんばってきてくだせえ!」
やけにうれしそうな御者の男にも言われて、トーラはおっかなびっくりトラックに乗り込む。
「な、なんだこれ!血?」
「ああ、最初からシートについていたんですよ。洗ったけどそれ以上は落ちないみたいで……がまんしてください」
平然というリトネが恐ろしい。よく見ると、前のフロントガラスに変な丸い穴が開いていた。
「それじゃ、行きます!」
リトネが軍用トラックを発進させる。
「ギャーーーー!速い!!!!怖い!!!!!」
初めて乗る自動車のスピードに、恐怖の声をあげるトーラだった。

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