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誘拐実行
シャイロック城
トーラの手引きで進入したアッシリア家の遺臣たちは、戸惑っていた。
蒼月夜で元々警備兵は少なかったが、彼らが全員眠っているのである。
「これは……どういうことだ?」
「わからん。だが、好都合だ!」
トーラを先頭にして、メイドたちがいる官舎に進む。
目的の部屋は相部屋になっており、20歳くらいの美しい女と、10歳くらいの美少女が眠っていた。
「ああ……そんな。いたいけなリトネ様が、ひげもじゃのオジサンたちにもてあそばれて…」
「すう……すう……おにいちゃん。ミルキーちゃん」
二人とも楽しい夢でも見ているのか、その頬はだらしなく緩んでいる。
「こいつか?」
「ああ。間違いない」
侵入者は、寝ているリンを抵抗できないように縛り上げる。
そのとき、異様な気配を感じ取って隣に寝ていたメイドが起き出した。
「うるさいですよ……え?あなたたちは!」
「チッ」
リーダー格のフードをかぶった少女が、そのメイドに当身をくらわす。
彼女はあっさりと床に倒れこんだ。
「顔を見られたか……仕方ない、お前たちはこいつら二人をアッシリア領まで連れていけ!」
「姫御はどうするんで?」
遺臣たちが聞いてくる。
「この子はリトネを釣り出す餌だ。あたいはここに残って、あいつをうまく連れ出す」
トーラはきびきびと命令を下す。
遺臣たちは彼女に従って、リンを誘拐していった。
次の日
シャイロック家は大騒ぎになった。
「メイド長のネリー様と、リン様がいない!」
「アベルという少年も牢から消えたぞ!」
彼らの姿を探して、騎士たちがエレメントの町を走り回る。
リトネたちも心配していた。
「くそっ!きっとアベルがリンをさらったんだ!油断した!」
リトネはアベルが犯人だ思って、悔しがる。
(ふっふっふ……どうやら、もう一人逃げ出した奴がいたみたいだな。そいつがあの子をさらったことにして……)
トーラはこの状況を利用することにした。
「リトネ坊ちゃん。実は、こういう手紙を城の前で渡されたんだが」
こっそりと自分で書いた手紙を渡す。
「さらった少女の命が惜しければ、一人でアッシリア領までこい。もし誰かに言った場合、少女の命はない」
手紙にはそう書かれていた。
「くっ……」
それを呼んだリトネは立ち上がり、その足でアッシリア領に向かおうとする。
「ちょっと待て!どこに行く気だ」
「……」
「悪いと思ったが、手紙は先に読ませてもらった。行くんだな」
トーラの問いかけに、リトネは頷く。
内心でしてやったりと思いながら、トーラは親切顔でいった。
「出発は夜になってからのほうがいい。ここをこっそり抜け出すためにはな。あたいの故郷はアッシリア領だ。案内してやろう。夜になったら城の外に来るがいい」
「……でも、一人でこいって」
リトネはトーラを巻き込むことに不安を覚える。
「大丈夫だよ。さすがに案内人がいることぐらい、さらったやつらにもわかるさ。あんた、アッシリア領にいったことがあるのかい?広い砂漠で、道をしらなけりゃ領都アリアに絶対たどりつけねえぞ」
「……仕方ない。先生、よろしくお願いします」
頭を下げるリトネに、トーラは腹の中で笑う。
(くくく。世間知らずの坊ちゃんめ。こいつがいくら強くても、アッシリア領までつれていけばこっちのもんだ。後はこいつの身柄を引き換えに、あの悪代官を罷免させて、親父を大騎士に復帰させて)
バラ色の未来を思いうかべるトーラだった。

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