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地下牢
蒼月夜。
男装の麗人か、少し耳のとがったメイドと情報交換していた。
「それで、勇者アベルは捕らえられたのか?」
「はい。リトネお坊ちゃまに負けて、牢に入れられています」
メイドは含み笑いをしている。
「まったく……勇者の血を引くとはいえ、ただのガキか。情けない」
「リトネ坊ちゃまが強すぎるんですわ」
そういうメイドの口調には、わずかに尊敬が含まれていた。
それを聞き取り、男装の麗人カイザーリンがジト目でにらむ。
「スネリよ。まさかとは思うが、奴に心を奪われたのではないだろうな?」
「ふえっ?い、いや、そんなことないですよ。たしかに坊ちゃんは可愛いし、新しい文化を導入してくれて楽しませてくれたけど……」
メイドが慌ててそういった時、カイザーリンの耳にかすかな物音が聞こえる。
「これは……何人か侵入者が来たようたな?」
「泥棒でしょうか?」
メイドが首をかしげる。
「ちょうどいい。貴様は奴らに便乗して、勇者アベルを逃がすのだ。私は警備兵を眠らせておこう」
そういうと、カイザーリンの姿が消える。
「まったく……魔族である私たちが助けないといけない勇者って、情けないですね。まあ、だからこそ利用価値があるのでしょうが」
メイドは独り言をいうと、地下牢にむかうのだった。
地下牢
祭りで暴れたアベルは、ずっと地下牢に入れられていた。
「くそ……あのリトネとか言うやつめ!勇者である僕に恥をかかせやがって……」
アベルは牢の中で、ずっとリトネへの憎しみに燃えていた。
卑しい金貸しの孫に、勇者の子孫である自分が衆人環視の中で地べたを舐めさせられた屈辱には何度思い返しても腸が煮えくり返る。
「あの女たちも、勇者である僕を馬鹿にしやがって……」
わざわざ手を差し伸べてやったのに、自分に罵声を浴びせた女たちも憎い。
「もうあんな奴ら知るか!後から僕の伴侶になりたいなんて言っても、絶対に許してやらない。いや、奴隷にしてこき使ってやる」
へし折られた勇者というプライドは、彼を確実に歪ませていった。

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