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誘拐計画
リトネへの指導が終わったトーラは、エレメントの町の裏通りに来る。
いかがわしい雰囲気がある下町の一角の宿屋に、人目をさけるように来ていた。
「姫御!どうですか?」
「にっくきシャイロック家に一泡吹かせて、わがアッシリア大騎士家の再興を!」
トーラの周りに、フードで顔を隠した男たちが集まってくる。
彼らはシャイロック家の南西にある「サラハ砂漠」を領地としていたアッシリア大騎士家の遺臣の子息たちだった。
毎年の砂嵐の除去費用でたたでさえギリギリだった財政が、最近起こった火災により破綻した。それで商人たちから借金をしたはいいものの、そのまま返せずに貧困に苦しんでいたのだ。こまった当主が自分の上司にあたる慈悲深いルドルフ大騎士に相談したところ、借金を国に押し付けることに成功し、おかげで民を救うことができた。
ところが、強欲な金貸しであるシャイロック家の横槍により領地を取り上げられてしまったのである。
大騎士であったアッシリア家は没落し、その家族は王都に連れて行かれて監視状態。そしてその家臣たちは騎士としての身分を失い、平民に落ちてしまった。
さらに、その後にきた悪代官の苛政にも民は苦しみ、ついに耐えかねた元家臣の子息の一部が王都を脱出してきたアッシリア家の姫であるトーラの元に結集したのである。
彼らはシャイロック家への報復すべく、機会を待っていた。
期待にキラキラとした目を向ける彼らの前で、トーラはがっくりと肩を落とした。
「残念だけど、シャイロック家の坊ちゃんをさらう計画はやめたほうがいい」
麦茶を飲みながら、ため息をつく。
「どうして?」
「姫御は勇者アルテミックにしたがって旅をした武道家の子孫。元が卑しい商人の子孫であるシャイロック家の青びょうたん小僧なんか、ちょっとひねってやれば……」
アッシリア領から今回の計画のために呼び寄せられた彼らは、不満顔をする。
「だから、あいつは青びょうたんなんかじゃなくて、化け物なんだよ!」
身近でリトネの超人っぷりを見たトーラは、恐ろしそうに首をすくめた。
「化け物?」
「ああ。あいつはどんなに殴っても蹴っても堪えないし、しごいてもケロッとしてやがる。おまけにどんどんあたいの武術の技を盗んで強くなっていきやがる。手に負えねえ」
トーラの強さを知っている彼らは、それを聞いて暗い顔になる。
「な、なら、あいつを誘拐してシャイロック家に脅しをかけるという計画は……」
「心配するな。あいつの弱点はつかんである」
そういって、トーラは一人の少女の絵を見せる。
「このメイドはリトネのお気に入りだ。まず彼女を誘拐して、リトネをおびき出す。そして奴を交換条件にして、イーグル宰相にアッシリア家の再興を認めさせるんだ!」
トーラがとういうと、彼らの顔に希望が浮かんだ。
「さすがです!姉御!」
「いいか、決行は3日後の『蒼月夜』だ。その日は見張りもすくない。あたいが内部から手引きしてこの娘をさらうから、お前たちは馬車を用意しておくんだ!」
「わかりやした!」
アッシリア遺臣団によるリン誘拐計画は、静かに進行しようとしていた。

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