視点・2016参院選 若者の不安 「人口減少」論じる前に=論説委員・人羅格
毎日新聞
今回の選挙では「18歳選挙権」が実現した。各党とも若者重視の政策をアピールしている。
だが、肝心の若い世代の生活意識はどうだろうか。民間機関「明治安田生活福祉研究所」が先月発表した調査結果に驚かされた。
調査では20代の未婚男性に「結婚したいか」を聞いたところ「したい」は39%で、2013年の67%に比べ28ポイントも減ってしまった。20代未婚の女性で「したい」は59%で、男性よりは高かった。それでも3年前より23ポイント減っている。
調査は今春、全国20〜40代の男女にインターネットで実施した。約3600人が回答している。未婚の男性に結婚していない理由も聞いたところ、「家族を養うほどの収入がない」が27%で最多だった。
結婚する、しないは個人の選択の自由で、男性が「家族を養う」のが前提でもない。ひとつのネット調査で全体的な傾向を推定することにも慎重であるべきだろう。
それでも20代未婚男女で「結婚したい」と答える人が3年間で大幅に減ってしまった結果は気がかりだ。経済的事情や将来不安から結婚をあきらめる若者が増えている風潮を反映しているように思える。
政府は人口減少問題への取り組みを重点課題としている。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると現在1億2700万人の日本の人口は48年に1億人を割り、60年に8674万人に減る。
安倍内閣は人口1億人の維持を目指し、現在1・46の合計特殊出生率を1・8に引き上げる目標を掲げる。各党も今回の参院選では人口減少社会への備えを公約に記している。
選挙で人口減少問題が論じられることは当然だ。とりわけ東京などでは待機児童問題が深刻だ。保育士給与の増額幅が政党の公約でひとつの争点となっているのも、そうした意識の表れだろう。
だが、若者たちの立場に身をおいて、どこまで政党が「なぜ結婚が難しいのか」を真剣に考えているのかは疑問である。
若者が個人の選択として結婚し、子育てをして家庭を築く。そんな人生設計にすら困難を感じている人が増えているとすれば、人口減少対策以前の問題ではないだろうか。
雇用の安定など労働環境、子供の教育にかかるコスト、女性の社会参加推進など若者の将来不安を和らげるためにはさまざまな角度からの取り組みが必要だろう。こうした課題を政党は正面から論じてほしい。