内沼さんへインタビュー

「今の仕事は辞めるな!」 内沼晋太郎さんが教えてくれた“好き”を仕事にする具体策とは?

2016.07.05

社会人になって、それなりに頑張ってきたけど「今の仕事が好きか?」って聞かれるとちょっと返答に困る…。

「好きなこと」を仕事にしたいけど、“その第一歩”をどう踏み出せばいいのか分からない。あなたにも、そんな悩みはありませんか?

じゃあ、「好き」を仕事にするには、具体的にどうすればいいのか??

――今回、その疑問に答えてくれたのは、下北沢の新刊書店「本屋 B&B」の経営をはじめ、「本」にまつわるさまざまなプロジェクトを展開しているNUMABOOKS代表・内沼晋太郎さんです!

「B&B」で待っていますよ。という内沼さんに会うため、取材班(ライターの僕一人だけど)はいざ下北沢へ!!飲食店や洋服屋、雑貨屋などがひしめく下北沢の街並みを歩くことわずか1分

ビルの2階に「B&B」の文字を発見!

B&Bの店舗

この「B&B」というのは、「BOOK」と「BEER」という単語の頭文字!文字通り、ビールが飲める本屋なのだ!ひしめく本棚の奥に進むと、ドリンクが飲めるスペースが!『これは、真っ昼間からビールを注文したくなってしまうぞ…』という誘惑を抑えるのに必死な取材班(くどいけど、ライターの僕一人です)。

B&B店内の様子

(↑)店内のこのスペース、夜はイベントに使用されている。「B&B」では連日連夜、本屋の営業と並行してトークショーなどのイベントも開催されているのだ。出演者は、作家、漫画家、映画監督、俳優、ミュージシャン…などなど。毎日やってるくらいだから、これまでの出演者は数え切れないくらい!

内沼さんの登場です!

と、そこに内沼晋太郎さん登場!!「B&B」がプロデュースする新店舗「Rethink Books(リシンクブックス) 〜本とビールと焼酎と〜 with Ploom TECH」が6月にオープンし、お忙しい真っ只中、取材を受けていただき、ホント、ありがとうございます(汗汗)。

いまの会社は、簡単に辞めない方が良い

内沼さんへインタビュー
Profile:内沼晋太郎 氏
1980年生まれ、一橋大学商学部商学科卒。NUMABOOKS代表。ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。大学卒業後、某国際見本市主催会社に入社し、2ヶ月で退社。往来堂書店(東京・千駄木)に勤務する傍ら、2003年book pick orchestraを設立。2006年末まで代表をつとめたのち、NUMABOOKSを設立。著書に『本の逆襲』(朝日出版社)など。

――早速ですが、質問です!「好きなもの」があって、それを仕事にしたいけど一歩が踏み出せない。そう思っている読者がmeeta MAGAZINEには多いんです。書店の立ち上げから、ご自身での執筆活動に至るまで「本」をキーワードに、さまざまな仕事をしてきた内沼さんから、アドバイスをいただきたいです!

内沼:そうですね…(過去のミータマガジンの記事を読みながら)明和電機の土佐さんが言っている、「好き」よりも「適性」を考えるというのはいいですね。もちろん「何かを好き」というのは、それだけでひとつの才能のようなものです。でも、具体的な「好き」を仕事にすると、そのこだわりが邪魔になってしまうことがあります。

――例えばなんですか!?

内沼:仮に、漫画がとても「好き」で、漫画に関わる仕事がしたいと考えて、本屋や出版社に転職するとします。でも、その職場で必ずしも漫画だけにずっと関われるとは限りません。漫画とは違うジャンルの本に関わることになるかもしれない。もしかすると経理や人事などバックオフィスの仕事に配属されるかもしれない。

――うん。うん。

内沼:運よく直接的に漫画に関われたとしても、あくまでビジネスですから、「好き」より「売れる」を重視しなければいけない局面が多い。一つの「好き」だけを理由に仕事を決めてしまうと、「適性」がなかったときの苦しみが大きいです。もちろん「好き」かつ「適性」があればとても楽しいのですが、どちらかというと「適性」を優先して考えるほうが、楽しく仕事ができる可能性は高いとは思います。

――なるほど~。では、その「適性」は、どういう風に見極めればいいのでしょうか!?

内沼:よく言われることですが、人間は「他人から求められる仕事」をしている方が楽しく働けると思います。今、誰かの下で仕事をされている方であれば、上司や同僚から「コレお願い!」とよく任されるタイプの仕事が、自分の「適性」に合った仕事だと言えるかもしれません。

――そうですね。求められることを仕事にしないと、結局、上手くいかなそうですね。

内沼:もしそれでも「好きなこと」で何か一歩踏み出したいと思うのであれば、今の仕事を辞めずに、個人的なプロジェクトの1つとして立ち上げてみてはいかがでしょうか。

――と、いいますと?

内沼:どんなビジネスでも基本は、商品やサービスなど何らかの「価値」を、原価よりも高く売ることで利益を出すというものですよね。

――はい。

内沼:その仕組みが、今の職場ではどうなっているのか、多くの人が、本当に隅々まで理解しているとは言えないのではないかと思います。大きな企業であればあるほど。それを理解するということは、自分がどんな仕事をした結果、いまの給与をもらっているのかを改めて認識するということです。

――おお。

内沼:まずはそんな経営者的な目線を持ちながら、今の職場での働き方への意識を変えることは、新しい一歩を踏み出すときの糧になると思います。

――確かに、そういう視点で今の職場を見ると、色々と得られそうですね!

内沼:いきなり飛び出すのは危険です。今の職場で働きながら、まずは平日の夜などに自分で出来ることからやってみる。大変ですけど、どうせ独立したらもっと大変なんだから、まずはそれをやってみるのがいいと思いますよ。

――その方がいきなり食べらなくなってしまうようなリスクも抑えられますね!

内沼:例えば、将来的に本屋をやりたいと思っているとします。そうした方にはまず、日本全国各地で開催されている「一箱古本市」(※)に、屋号をつけて出店することを勧めます。まずはとにかく、本を売るということを経験してみる。(※)一人一箱分の古本を持ち寄って売り買いするイベント。

――ふむふむ!

内沼:その後、毎月数万円程度で借りられる雑居ビルに平日の夜だけとか、土・日だけとかオープンする本屋を開いてもいいかもしれません。あるいはまずはネットショップだけとか。いきなり儲けることを考えず、やれることをやってみてはどうでしょうか。就業規則で副業が禁止されていれば、自分がいいなと思う店を、お金をもらわずに手伝うのもいい。いくら本やネットで調べて知った気になっていることでも、まず小さくはじめることで学べることはたくさんあります。

好きなものを10コ挙げて、その「両極端」を結び付ける

店内の様子、その2
※下北沢の書店「B&B」は、書籍や雑誌だけではなく、関連する雑貨も販売しています。

――さらに具体的なお話をお聞きしたいと思います!「好きなもの」「やりたいこと」が漠然とあるものの、それをどう形にすればいいか分からない。そんな読者もいるんです。アイデアをビジネスとして具体化する方法、教えてください!

内沼:うーん、例えばですけど、その漠然とした「好きなもの」「やりたいこと」を10コとか、挙げてみるのはどうでしょうか。「音楽」、「映画」、「本」、「フェス」、「農業」……キーワード的にいろいろ挙げることができますよね。

――はい、いろいろ挙がってきます。

内沼:それらのキーワードの中から、なるべく互いが遠くにある、「両極端」にあるものを結び付けると、競合が少ないビジネスになる可能性があります。例えば、「音楽」と「映画」を結び付けるのは、とても一般的。「音楽」と「映画」を掛け合わせたビジネスはすでに世の中にいっぱいあると思います。…しかし、「フェス」と「農業」を結び付ければ、何か新しいものが生まれるかもしれません。

――たしかに!!!「フェス」と「温泉」という掛け合わせは聞いたことがありますが、「フェス」と「農業」は聞いたことがありません…!!

内沼:ただ掛け合わせただけではアイデアにはなりませんから、先ほどもお話ししたようにまずは小さく、フェスへボランティアに行くとか、ベランダで農作物を育てるとか、アクションしながら考える。で、何か思いついたとして、それがどんな画期的と思えるアイデアであっても、世界中で100人くらいは同じことを考えているはずです。そこで重要なのは、考えただけで終わらせるのではなく、実行することです。

――そりゃ、そうだ!

内沼:当たり前のことですけど、考えるだけで、実際にやらない人が多いんです。なぜなら、新しいことを始めるのは、面倒だから。「考えて終わり」ではなく、実行した人が第一人者になれるんです。

――この「B&B」も、そういったアイデアを注入して立ち上げたんですか!?

内沼:そうですね。「B&B」は店名自体が、「本(Book)」と「ビール(Beer)」の掛け合わせですよね。過去に考えた人はたくさんいると思いますが、「本にビールがこぼれてしまったら」など、確かに面倒そうなことが多い。けれど、課題を整理してひとつずつクリアすることで実現したら、これまでにないコンセプトの本屋として、多くの人に受け入れていただくことができました。新しいアイデアを思いついたら、面倒を厭わずに動き出すのがよいと思います。

今、一歩を踏み出せずにお悩み中のあなた!迷って、モヤモヤしていても仕方がない!早速、紙とペンを持ってこよう。そこに、「好きなもの」を10コ、書き出してみてほしい。「あ、コレ掛け合わせるとオモシロイかも!」なんてアイデアが浮かんでくるかも…。

ちなみに、ライターの僕が考えたのは…

まず、好きなものはコレ↓
1.「神々の山嶺(漫画版)」
2.「マイケル・ジャクソン」
3.「牛久大仏」
4.「レッドブル」
5.「広島東洋カープ」
6.「サウナ」
7.「フリースタイルダンジョン」
8.「鰻」
9.「タモリ」
10.「神保町」

面白い組み合わせ…というと、「鰻を食べながら、マイケル・ジャクソンを聴き、語らう会」なんてイベントがあったら、僕的には最高かもしれない。あと、「移動式サウナに入りながら眺める牛久大仏」…これも最高だ!ちょっと考えただけでもワクワクが止まらない。ぜひ、お試しあれ!

内沼さんの著書
※「本の未来は、明るい」と述べる内沼さんの著書『本の逆襲』(朝日出版社)。

(取材・執筆・撮影:眞田幸剛)

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