香港が英国から中国に返還されたのは1997年7月1日である。19回目となった今年の記念日はいつになく緊迫した。

 返還にあたり中国が約束した「一国二制度」が守られず、香港の自由が損なわれたと多くの人々が受け止めているからだ。1日、香港中心部であったデモには大勢の市民が参加した。

 香港の空気を重くしているのは、「銅鑼湾書店」の関係者が昨年10月から次々消息を絶ち、中国当局による拘束が判明した事件である。

 店長の林栄基氏が6月中旬に帰り、経緯を暴露した。

 中国広東省深センに入ったところで政権の特別チームに捕まり、厳しい取り調べを受けた。親族や弁護士に連絡をとることが許されず、自白を強いられた。罪を認める映像が流されたのは、用意されたセリフを読み上げたものだったという。

 銅鑼湾書店は中国指導部の醜聞を伝える本を出版しており、そうした「禁書」が当局に問題視された。林氏は1日のデモに参加する予定だったが、身の危険を感じ、とりやめた。

 香港は一国二制度下で、言論の自由を含め市民としての自由権が保障されている。それが中国当局によって踏みにじられていたとなれば、重大だ。

 返還後の香港は、北京からの圧力にずっとさらされてきた。

 一昨年は行政長官選挙をめぐり、習近平(シーチンピン)政権が候補者を制限する制度を決めたのに対し学生らが猛反発した。長期にわたり街路を占拠した「雨傘運動」は香港史に画期をもたらした。

 だが、習政権のかたくなな姿勢を前に、彼らの関心は内向きになっている。雨傘運動を担った学生団体は、この6月4日、天安門事件の追悼集会に参加しなかった。展望の開けない中国よりも、まずは香港を心配するべきだというのだ。

 天安門事件発生時は香港市民が懸念を募らせ、参加者の海外脱出を助けた。以来毎年の集会で「天安門を忘れるな」の叫びを世界に発信してきた。

 中国の民主化を抜きに香港の明日は語れないし、香港の動きは中国に影響を及ぼす。そんなかつての一体感は、若者の間で次第に陰っているようだ。

 ただ、民主化運動に伴って香港人意識が強まるにつれ、中国への関心が薄れることは避けられない面がある。香港の自由を守ることがこれまで以上に重みを増しているとも言える。

 大切なのは、日本を含む他国から、香港と中国の市民社会に関心を寄せることだ。保障されるべき人権に国境はない。