国有企業中心の重工業に傾斜している経済の転換を図る努力にもかかわらず、中国の民間部門は過去8年間の融資拡大の恩恵にあずかっていないことが研究で明らかなった。
北京大学の経済学者らによると、民間部門の負債は総資産に占める割合で2008年の48%から15年の35%に減っている。一方、国有企業は収益性が民間企業の3分の2の水準にとどまるにもかかわらず、総資産負債比率は同時期に53%へと微増している。
「良いレバレッジが減り、悪いレバレッジが増えている」と、北京大学国家発展研究院の黄益平教授は言う。
この傾向を逆にしないと、「さらに資金が高効率の部分から低効率の部分へ流れて資本配分のゆがみが増し、中国経済のリスクが高まる」と黄教授は警告する。
今年前半、国有企業による投資が急増した一方で、民間企業の投資は減少が続いた。民間企業は銀行融資の代わりに内部留保を投資に充てている。中国経済が減速するなか、この戦略が民間部門の投資減少につながっている。
民間部門の中小企業は、影の銀行(シャドーバンキング)からの融資に年20%もの利息を支払っている。「アジア・ポリシー」誌に掲載された李建軍氏らの研究によると、調査対象とした中小企業のほぼ6割が非公式な信用市場を利用していた。
中国政府は世界金融危機を受けて4兆元(約62兆円)の景気対策を打ち出し、鉄鋼など莫大な量の資材を消費するインフラ投資に拍車をかけた。だが、経済成長が四半世紀ぶりの低水準に減速した現在、重工業の国有企業は過剰設備を抱え込み、銀行融資の返済に苦しんでいる。公式統計によると、国有企業の利益は今年1~5月に前年同期と比べて1割減少した。
中国は不採算の国有企業を淘汰し、より規模が小さく生産性の高い民間部門の企業を育成して経済を再調整しようとしている。
だが黄教授によると、08年以降に起きていることは正反対だ。「国有部門が前進して民間部門は後退している」
■銀行、国有企業への融資に軸足
農業関連事業の大実業家で中国民生銀行の共同創業者でもある劉永好氏は、フィナンシャル・タイムズ紙に対し、中国の「金融部門は私たちが生きているこの時代に合っていない」と語った。
「我々の銀行と金融機関は国有部門と政府のために働いている」と劉氏は言い、民間企業が中国の経済生産の6割を担っていることを指摘した。
「中国の銀行は設立当初から、民間企業に資金を提供するという目的を持っていなかった」
中国の国有銀行は従来、国家保証があると見なされる国有企業への融資を好んできた。銀行と国有企業は長年の関係もあり、銀行側は民間企業への融資よりも規模が大きい国有企業への融資を収益の柱にしている。
「銀行職員になり代わって言えば、国有企業への融資なら焦げ付いても、上司に『すみません。商業的な事情による間違いでした』と言える」と、黄教授は話す。「それが民間企業への融資だったら、どれほど説明が要ることか」
今年第1四半期に中国の銀行貸し出しは過去最高の4兆6000億元に達した。格付け会社フィッチ・レーティングスは6月30日、中国鉄鋼業界の負債は4兆元で、資産の7割超に達していると警告した。
By Yuan Yang and Tom Mitchell
(2016年7月4日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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