「安い」のはいいけど「安っぽい」のはイヤ!100円のボールペンを死守するがっかりおじさん
■連載/文具ソムリエール菅 未里の「誘惑文具」
安い、というのは素晴らしいことだと思います。安価で素晴らしい文具はたくさんありますし、私も大好きです。いっぱい持ってもいます。
でも、「安っぽい」のはいかがなものか。というのも、「安い」と「安っぽい」は全然別だからです。
■100円のボールペンを死守…
みなさんの周りにもいませんか? 100円くらいのボールペンを「死守」している人。
たとえば、クリップが折れているボールペンを使い続けていたりします。理由を聞くと、「折れたクリップが目印になって他人のものと混ざらないから」などとおっしゃいます。あるいは自分の名前を書いた付箋をセロテープで貼っていたり。そのセロテープが汚れてきて、ちょっと不潔な感じなのに、構わず使い続ける…。自分のものだと誇示することで他人にとられたくないらしいのですが、そもそも、そんなボールペンを使いたがる他人がいるのでしょうか。
私の経験上、なぜか40歳以上のおじさまにばかり目立つ気がするのですが、結構いますよね。そういう「がっかりおじさん」。
なぜがっかりかというと、安っぽい印象を与えるからです。そして、大人の男性らしい余裕がまったく感じられません。
がっかりです。
■「安っぽい」人はモノを大事にしていない
誤解を招きそうなのでもう一度言いますが、「安い」と「安っぽい」は違います。いえ、むしろ正反対といえるでしょう。
見方によっては、汚れを承知で名前付きの付箋を巻いてまで安価なボールペンを使い続けるのは、モノを大事にしているといえるかもしれません。でも、私はそうではないと思うのです。
文具はみな、デザインされています。100円のペンも、100万円の万年筆も、その点では同じです。モノとして完成しているんです。そこに付箋やセロテープを巻くという行為は、デザインを破壊します。つまり、大切にしていないと表現すべきではないでしょうか(100万円の万年筆に付箋を巻きますか?)。
たとえば、ゼブラ株式会社に「ニューハード」という透明軸のボールペンがあります。税抜き80円です。軸が透明なのでインクが外から見えるのですが、それがとても素敵で、私も大好きです。完成されたデザインです。
しかし、そこに付箋を巻くとどうでしょうか。せっかくのデザインが台無しです。それは、安っぽい、モノを尊重しない行為だと思うのですが、いかがでしょうか。
■大人の余裕を!
特に、良い年のおじさまが安っぽいことをしていると、致命的です。小学生がお小遣いで買ったペンに同じことをするのは、愛らしいですよね。でも、大人の男性ですよ。もっと余裕が欲しいな。
自分のペンを失くしたくないのはわかりますし、尊敬すべき心がけだと感じます。でも、その方法がまずい。必死すぎるのです。さもしいのです。
例えば、ペンに名前を入れたいなら、金属軸のボールペンに名入れをしてはどうでしょう。フォルムを損ねずに自分のモノであると明示できます。それほどお金もかかりません。安価な金属軸のボールペンはたくさんありますから、名入れにかかる費用と合計しても数百円でしょう。
まとめます。安いことは素晴らしい。モノを大切にするのも、いいことです。でも、そのやり方がよろしくないと安っぽくなり、むしろモノとご本人の価値を損ねるのです。
菅 未里
文具ソムリエール。毎日の生活がちょっと楽しくなる文房具を紹介するウェブサイトmisatokan.jp運営。大学卒業後、文具好きが高じて雑貨店に就職しステーショナリー担当となる。現在は会社員として働く傍ら文具ソムリエールとしてメディアで文房具の紹介、執筆、撮影協力などの活動を行っている。
編集/佐藤喬