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第百八十二話「王都アルス」
王都アルス。
世界最大の都。
人魔大戦を勝利に導いた勇者の名を冠した町だ。
この町を生まれてはじめて見た時、人は驚愕を隠せまい。
丘の上にそびえる、荘厳なる王城。シルバーパレス。
城を囲む、上級貴族たちの巨大な邸宅。
それらを囲む要塞のような城壁に、そこからどこまでも広がる町並み。
巨大な闘技場。
絢爛たる騎士団の訓練場。
聖ミリス教団の美しい神殿。
街中に張り巡らされた水道橋。
世界最大の商社の本部。
水神流宗家の道場。
劇場が立ち並ぶ歌劇街。
艶やかな女性の色香漂う宿場街。
ラプラス戦役の勝利を記念して作られた門。
町はどこまでも広がり、決して視界に収まりきることはない。
母なるアルテイル川を超えて、どこまでも、どこまでも……。
これがこの世のすべてがあるとまで言われる、人族最古の町である。
冒険家・ブラッディーカント著 『世界を歩く』より抜粋。
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小高い丘から王都を見た時、俺はエリスと二人で揃って口を開けた。
王都は広かった。
この世界で見たどの都市よりも広かった。
まず、丘の上に建てられた城。
銀色の輝くこの城は、ペルギウスの城と同等かそれ以上の大きさを持つ。
それを囲むのは、要塞のような分厚い城壁だ。
高さにして20メートル以上はあるのではないかと思えるほどの堅牢な壁。
例えはぐれ竜が来襲してきても、あの城壁を超える事はできまい。
さらにその城壁を囲むのは、きらびやかな邸宅の数々だ。
あの区画が上級貴族の住んでいる場所なのだろう。
城サイズの邸宅がボンボンと立っている。
そして、その区画を囲むのは、やはり城壁だ。
そこからはいわゆる普通の町並みが広がっているのだが、
ある一定区間ごとに、城壁で囲われている。
長い年月を掛けて、段々と町が成長したのだろう。
それに合わせて、城壁も作り足されたのだ。
しかし、その城壁は、5つを数えた所で存在しなくなる。
そこからは、雑多な町並みがどこまでも続いていく。
地平線の先までだ。
城壁を作るのに費用が掛かり過ぎるのと、
騎士団なんかが魔物を定期的に退治するため、
城壁が無くとも、なんとかなるのだろう。
前世の大都会に比べると狭いのだろうが、
こう、ファンタジーな町並みが視界いっぱいに広がっているのを見ると、言い知れぬ感動が胸に到来するな。
「……」
「帰ってきましたね」
しかし、俺達以外の面々に到来しているのは、別の感動らしい。
彼らは極めて険しい表情で、城を睨みつけていた。
アリエルすらも馬車から降りて、城を見ていた。
「行きましょう」
アリエルの言葉で、俺達は王都へと入った。
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外から見れば凄いものでも、内側に入ってしまえば大した事はなかった。
町の入り口は、どこも一緒だ。
行商が溢れ、冒険者が闊歩している。
ただ、やはり他の町に比べると、冒険者が若い。
歳を食った冒険者もいるが、心なしか元気が無いように見える。
違いといえば、道幅がやたらと広いことぐらいか。
馬車六台がすれ違えるサイズはある。
片側三車線だな。
この道は、町の中央広場まで続いているらしい。
「私の別宅へ移動します。そこを拠点としましょう。王宮に入る前に、いろいろと準備が必要です」
というアリエルの言葉により、俺たちは道を進む。
目指すは、ビル街みたいな上級貴族の区画だ。
町中を移動するだけ、といっても、半日ぐらいは掛かりそうだ。
ルークを先頭に、シルフィ、ギレーヌ、馬車、俺とエリスといった順番で道を進む。
一列縦隊だ。
多少広がっても文句は言われない道幅だが、
貴族とすれ違う時にどく、どかないで面倒な事になるとか。
普通は下位の貴族が道を譲るわけだが、アリエルは馬車に自分の紋章をつけていない。
いちいち姿を現してどきなさいと言わなければいけない事態というのは、単に時間の無駄だ。
そうして町中へと移動していく。
ある地点から、趣が変わる。
冒険者主体の町から、町人主体の町へ。
すると、町人の中からこちらを指さす者が出始めた。
「あれ……もしかしてルーク様とフィッツ様じゃないか……?」
「ホントだ……てことは、もしかしてあの馬車は……!?」
「アリエル様か!?」
「国王陛下のご病気を聞いて、戻ってらしたんだ!」
ルークとシルフィの顔から、馬車の中身がバレている。
別に、必要以上に身分を隠すつもりは無い。
完全に姿を隠せると思っているわけでもないし、
王城に入れば、嫌でも姿をあらわす事になるしな。
仮に現時点でダリウスがこちらの動きを知らなかったとしても、
アリエルの行う準備とやらで、すぐに動向がバレる事だろう。
こちらは時間的に急いでいるわけではない。
「キャー、ルーク様ー!」
「フィッツ様!」
「アリエル様ー! お帰りなさいませー!」
それにしても、大人気だな。
あちらこちらから、声援が飛んでくる。
たまに、花が投げ込まれることもあった。
全ての人間が、というわけではないが、五人に一人ぐらいはこちらを見て反応してくれる。
アリエル達、思った以上にアイドルみたいだ。
ルークなんか、手を振り返してるし。
アリエルらが王都を出てから、もう10年近くになるだろうに。
それでもまだこれだけ人気があるというのは、凄いことだな。
しかし、アイドルが通るというのに、道を塞ぐ者が一人もいないというのは面白いな。
貴族様の馬車の前には出ない、というルールがあるのだろう。
大名行列を邪魔するものは斬り捨て御免になるとか。
「せーの、フィッツ様ー!」
シルフィは声援を受ける度に、耳の後ろをポリポリと掻いている。
あれは、戸惑っている時のシルフィの癖だ。
あとでからかってやろう。
歓声は、広場を超えると、さらに強くなった。
人々が、「アリエル帰還」の報を、触れて回っているのかもしれない。
これだけ騒ぎが大きくなると、騒ぎを治めるために衛兵とかが飛んでくるんじゃなかろうか。
それとごたごたしている間に、オーベールが後ろからブスッとやってくるとか。
怖いな……。
と、懸念していたが、襲撃はなかった。
兵士がいないわけではない。
彼らも民衆と同様、歓声をあげていたのだ。
部隊長っぽい奴が率先してだ。
下っ端の兵士も含めて、民衆はアリエルの味方らしい。
アスラ王国は、別に政治に不満があるというわけでもないというのに。
まるでヒーローのような出迎えられ方だ。
人気すぎて、俺なんかは肩身が狭いぐらいだ。
「気分がいいわね!」
もっとも、エリスは違う感想をお持ちのようだが。
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貴族の地区に入りこむと、歓声の数は減っていった。
あくまで民衆に人気があるというだけで、貴族には人気が無いのか。
それとも、単に貴族は道端で歓声を上げる趣味を持たないのか。
どっちもか。
貴族の地区に入ると、時折、甲冑を着て町中を隊列を組んで歩いている集団がいた。
銀色の全身鎧に、フルフェイスの兜を身につけた、重そうな連中だ。
民衆に混じっていた兵士たちに比べて、真面目そうな雰囲気をまとっている。
兵士が警察だとすると、こっちは軍隊という感じか。
「なんだろ、あれ」
「見習い騎士ね」
疑問を口にすると、珍しくエリスが説明してくれた。
「騎士学校に通わずに騎士になるには、見習いになって儀礼とか式典とか、そういうのを覚えなきゃいけないんだって」
「へぇ……」
「こういう町中の見回りをするのも、見習いの役目だそうよ」
「よく知ってるな」
「ふふん、友達に聞いたのよ」
エリスに友達がいるなんて驚きだ。
口ぶりからするとエア友達のともちゃんではなさそうだが。
「友達って、剣の聖地の?」
「そうよ」
てことは、剣士友達。
剣友か。
「俺は、エリスに友達が出来てくれて、嬉しいよ。
喧嘩してもいいけど、時には自分を抑えて、ちゃんと仲良くするんだよ?」
「でも、その子……」
と、エリスが言いかけて、言葉を止めた。
サッと視線をめぐらし、腰の剣に手を掛けた。
エリスの視線の先。
見習い騎士の一人が、じっとこちらを見つめている事に気づいた。
フルフェイスのメットのせいで、その表情はわからない。
敵だろうか。
ただならぬ気配を感じる。
その人物は、部隊長と思わしき者になにかを言ってから、
こちらに走り寄ってきた。
「……っ!」
シルフィが、ギレーヌが、ルークが、己の武器を抜き放つ。
すごいなシルフィ。
今、ギレーヌより早く杖を抜いたぞ。
「わっ……!」
甲冑姿の人物は、いきなり武器を抜いた三人に驚き、足を止めた。
戸惑いを隠せない感じだったが、それでもバケツのような兜に手を掛け、引き抜いた。
中から出てきたのは美女だ。
美女としか言いようがない。
流れるような髪。汗に濡れた額には、色気のようなものを感じ取れる。
「エリス! ギレーヌ! 私です!」
彼女の視線は馬車の後ろ、俺達に向けられていた。
正確に言えば、エリスにだ。
「…………」
エリスは、馬上からその女をじっと見つめている。
「エリス。生きていたのですね。
お師匠様が、どうせ龍神と戦えば生きては帰れないと言っていたからてっきり……。
それにしても、どうしてアスラ王国に? 連絡をいただければ私も――」
「誰よあんた」
「っ……」
女は息を飲み込んだ。
そして、やや悲しそうな顔をした。
悲しそうだが、でもエリスならしかたがないか、という顔だ。
エリスをよくわかっている人の顔だ。
「……冗談よ」
エリスがそう言いつつ、するりと馬を降りた。
「久しぶりね、イゾルテ。変な鎧着てるから、一瞬誰かと思ったわ」
「変な鎧って……これ、アスラ王国騎士団の正式な甲冑ですよ?
かっこいいでしょう?」
「動きにくそうだわ」
「水神流は動かなくてもいいから、これぐらいが丁度いいんですよ」
エリスの知り合いと知って、ルークが剣を収めた。
シルフィもほっとした表情だが、杖は構えたままだ。。
ギレーヌも抜身のまま剣をぶら下げ、周囲を見渡している。
ほっとした瞬間こそ危ないのだから、彼女の判断は正しかろう。
「今は、この馬車の方に仕えているのですか? 町中では「第二王女様が帰ってきた」という噂が飛び交っていますが、もしかしてこちらの方は……、でもどうしてエリスが……あ、確か魔法都市シャリーアに留学しているという話でしたね。そこで知り合って……剣王だから雇われたという感じですか?」
物静かそうな外見とは裏腹に、意外とよく喋るな。
エリスは静かだ。
マシンガンのような言葉を浴びせられ、腕を組んでいつものポーズをとっている。
彼女は言った。
「………………まあ、だいたいそんな感じよ」
どうやら、途中から聞いていなかったらしい。
きっと、この二人の会話というのは、いつもこんな感じなのだろう。
「私は、お師匠様の推薦で、騎士になる事になりました。
正式な騎士の任命と共に、水帝の称号をもらえる予定です」
「そう、良かったわね」
「ええ」
と、そこでルークが馬頭を巡らせた。
こちらへと移動してきて、トンと馬から降りた。
柔和な顔で聞いてきた。
「再会の時間を邪魔して申し訳ありません……エリスさん、知り合いですか?」
「ええ、そうよ」
「そうですか。つもる話もあるでしょうが……手短に終わらせていただけると助かります」
「わかってるわよ」
物腰柔らかにそう言うと、ルークはイゾルテに向かい、優雅に礼をした。
「失礼、ご婦人。申し訳ないのですが、我らは任務の途中。
いずれ時間などが取れる時期もありましょう。
その時に、お詫びなども兼ねて――」
「結構です」
「左様ですか、では、失礼します」
冷たく断るイゾルテに、ルークは苦笑も見せず、柔らかな笑みのまま、馬に飛び乗った。
ルークは馬を先頭へと移動させた。
その姿を、イゾルテが不快そうに見ていた。
「あれが、例のルーデウスですね。
想像していた通りの、嫌らしい態度……魔術師の癖に剣なんて持って、カッコつけてるんですか?
エリス、あんなのと結婚したんですか?」
「……私は、ルーデウスと結婚したのよ」
「はぁ……? 確かに顔はいいですけど、妻の目の前で別の女性に声を掛けるなんて……私は好きになれませんね。エリスは趣味が悪いですよ?」
「……?」
イゾルテはルークに聞こえないように、声を潜めてそんな事を言っていた。
エリスはきょとんとした顔をしている。
どうやら、イゾルテは俺とルークを間違えているらしい。
真正面から陰口を聞く立場は、少々いたたまれない。
カッコつけてるつもりはないが、俺も、たまに剣とか振り回してるしな……。
「もう行くわ」
「そうですね。忙しい所を引き止めて、申し訳ありませんでした。
……しばらくはこっちにいるんでしょう?」
聞かれ、エリスは俺をちらりと見た。
少なくとも、アリエルが王位を取れるまでこの都に滞在するのは間違いあるまい。
そう思って頷きを返しておく。
イゾルテはそこで初めて俺の方を見た。
きょとんとした顔だ。
「えっと、そちらの方は?」
きまずい。
ルーデウスと答えていいのだろうか。
まぁ、偽名を名乗る理由もないが……向こうも陰口を叩いた手前、嫌な空気になりそうだ。
「ヒヒン!」
と、そこで松風が動いた。
俺の意思に反してエリスの方へと動き、その背中を頭で押した。
こら、勝手に動くんじゃない、今度白菜あげるから……。
「あっと、すいません、急いでいたのでしたね」
しかし、その動作を見て、イゾルテが察してくれた。
「じゃあ、非番の時にでも、町を案内しますね。
……その時には、そちらの方も紹介してください」
そちらの方と言われ、目線をもらう。
ここで「ご紹介に預かりました、ルーデウスです」と言ったら、彼女はどんな顔をするだろうか。
「よくわからないけど、わかったわ」
「よくわからないって……エリスはいつもそうですね。
では、聖ミリスのご加護があらんことを」
イゾルテはそう言うと、優雅に一礼をして、去っていった。
ふむ、ミリス教の人だったか。
エリスはその後姿を見ていたが、やがてふいっとこちらを向くと、馬に飛び乗った。
それを確認し、ルークが移動を始め、馬車も動き出した。
「さっきのがイゾルテ。水王よ。剣の聖地で知り合ったのよ」
「なるほど。仲良さそうで、いいことだよ」
「そうね……でも」
と、エリスは言葉を切って、イゾルテの方を向いた。
銀色の集団が隊列を成して、路地へと消えていく所だった。
「敵に回るかもしれないのよね……」
ああ、そうか。
水王イゾルテ・クルーエル。
オルステッドからも、「敵として出てくる可能性のある人物」として、その存在は聞いている。
そもそも、水神レイダは敵である可能性が高いとして、エリスに話してある。
エリスはその時点で、イゾルテも敵に回ると察していたのかもしれない。
見習い騎士という立場なら、そう何かができるとは思えないが……。
それでも立場が低いだけで、腕前は水王。
戦場となれば、出てくる可能性は高い。
「……エリスは、それでいいのか?」
「腕が鳴るわ。剣の聖地での決着をつけられるもの」
「そっか」
俺にはわからんが、悩みもせずにそういう言葉が出てくるということは、つまり、二人はそういう関係なんだろう。
何かを競い合う関係なのだ。
理解できなくもない。
もっとも、それが命のやりとりにまで発展するとなると、俺の理解の範疇から大きく遠ざかる。
できれば、どちらも生き残ったまま、競い合い続けて欲しいものだ。
死んだらそれで終わりなんだからさ。
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道を途中で右に曲がり、坂を登り始める。
巨大な城壁は兵士に守られていたが、ルークが紋章のようなものを見せると、ほぼ顔パスで通された。
中級貴族の地区を通りすぎて、もう一度城壁をくぐると、小国の城や砦のごとき大きさを持つ家に囲まれた。
上級貴族の地区だ。
アリエルの別宅は、王城からやや遠い位置にあった。
町中にありながら、俺の家の5倍はある。
戦中に砦として使われていたエリスの実家ほどではないが、個人の家としてはでかすぎるほどにでかい。
既に時刻は夕刻を回った。
町中に入ったのが昼すぎだったから、本当に半日費やしてしまったな。
建物の敷地内に入ると、執事らしき人が出てきた。
彼はルークの姿を見るとすぐに引込み、大慌てでメイド達を集め、出迎えをしてくれた。
といっても、五人程度か。
彼らはアリエルが不在の間も、建物の管理をしていたのだろう。
使用人に迎えられ、建物の中へ。
内部は、豪華だった。
無論、豪華さはペルギウス城の方が上だが、要所に高そうな美術品があるところを見ると、別邸とはいえアスラ貴族の屋敷という感じがした。
ランクとしては、エリスの実家のワンランク上といった所か。
それぞれに客間を割り当てられた後、水浴びにて旅の埃を落とした。
水浴びに使う桶すら、金属製で装飾の入った、きらびやかなものだった。
屋敷内にはバスタブもあり、風呂にも入れるらしい。
俺が使う事はあるまい。
水浴びの後、食事を取った。
俺と、アリエル、エリス、シルフィの四人だ。
アリエルの配下、という立場の者は別の場所での食事となるらしい。
「さて、ルーデウス様」
「はい」
「ルーデウス様のご助力もあり、無事にここまで辿りつけました」
食事が終わった後、アリエルは改めて俺に声をかけてきた。
「私は、明日より動き始めます。
ペルギウス様をお出迎えするための、
そしてダリウス上級大臣を失脚させるための『場』を用意します。
私がいない間に寝返った貴族の確認に、情報収集、
予め潜伏させておいた味方への連絡、各所への根回し……。
忙しくなります」
「はい」
「ダリウスらに手を打たれぬように、早い段階で『場』を展開します。
幸いにして、父上が病気という事で主要な貴族は王都に集まっていますので」
決戦はもうすぐ、ということか。
「どれほどの時間を使うつもりですか?」
「10日を目処に」
「了解です」
10日か……。
早いな。
「既にこちらのカードは揃っています。
それ以外にも手はうちますが、基本的な勝利は疑いようがないものと考えております。
可能性としては低いと思いますが、
『場』において、苦し紛れに戦闘を仕掛けてくる可能性もあります」
正直、向こうは戦力を温存していたわけだし、可能性として低くは無いと思うがね。
「こちらの戦力も十分にあるとは思いますが、万が一という事もあります。
その前に、敵勢力の主要人物を削いでおきたい所です」
「ですね」
「ルーデウス様とエリス様、そしてシルフィには、その役目を担っていただければと思います」
各個撃破か。
確かに、北神流の連中を一度に相手するのは骨だろう。
「でも、探しだして、襲う、というのも難しいでしょう。
そんな事をしている間に、アリエル様が襲われないとも限りません」
この都にも、アリエルの味方はいるだろう。
だが、北帝レベルは存在していないはずだ。
俺、エリス、シルフィが抜ければ、アリエルを守るのはルークとギレーヌだけ。
ギレーヌは頼りになるが、北王クラスを複数人相手取れば、遅れを取るだろう。
「はい。ですので、釣ろうかと思います」
「釣る……?」
「わざと隙を見せて、そこを襲わせるのです。
それ用のマジックアイテムも所持していますので」
例の、姿を交換する指輪のことか。
あれを使って、誰かがアリエルになりすます。
襲いやすいシチュエーションを作り、相手に襲わせる。
シチュエーション作りは、アリエルが動きながらでもできるだろう。
貴族との顔合わせの帰り、根回しのついで。
朝方、夕方、深夜。
色んなパターンで隙を作ることは可能だろう。
向こうからきてくれるなら、探し出す手間は省けるな。
「シルフィには、少し危険な役目を担ってもらう事になりますが……」
「問題ありません」
と、即答したのはシルフィだ。
「ここが勝負時です。できることは、やっておきましょう」
となると、シルフィがアリエル役か……。
まあ、戦闘になれば安全な場所は無い。
ここまで来たら、どこも一緒だ。
本人がやる気なら、俺も全力で守ろう。
「引っかかってくれるでしょうか」
「五分……といった所でしょうか」
結局、王都に入るまで、襲撃は一度もなかった。
こちらも警戒していたとはいえ、一ヶ月近くの旅だ。襲うチャンスはあったはずだ。
となれば、アリエルが『場』を用意する事も読んでいて、そこで圧倒的な戦力を持って叩き潰す。
そんな心づもりである可能性が高い気がする。
「釣れれば良し。釣れなければ、身の安全は保証されます」
「……釣れなければ、総力戦になるでしょうね」
「その場合は、ルーデウス様にご負担を掛ける事と思います」
そうなりますよね。
大丈夫かな……。
「こちらに援軍は無いのですか?」
「ラノア王国で見つけ、予めアスラ王国へと送り込んだ者が何人かはいます。
が、せいぜい上級剣士、上級魔術士といった所です。
当日、『場』に配置しますが、北帝、北王といった相手をするには、力不足です」
ですよねぇ。
「いざとなれば、あのお方の力を借りる事になるかもしれません」
「あのお方ですか」
オルステッドか。
彼は、すでにこの町に来ているのだろうか。
定時連絡はしているが、報告すべき事も少なく、彼も言葉は少ない。
アリエルは俺がルークに警戒されるようになってからは、オルステッドに会ってはいない。
「そうですね、いざとなれば、力を借りましょう」
このやりとりにシルフィが首を傾げていたが、まあいいだろう。
「では、その方向でお願いします」
「はい」
10日でやる事も決まった。
明日より、アスラ王国での戦いが始まる。
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