増田寛也「ほとばしる無能」を都知事候補に担ぐ石原伸晃&自民都連

総務大臣として福田内閣入りする増田寛也さん。前都知事など懐かしい顔が、ちらほら。(写真:ロイター/アフロ)

山本一郎です。千代田区民ですが、ビール券はもらってません。

一人の東京都民として、一連の事態で皆さまをお騒がせしてしまい申し訳ない気分でいっぱいです。

そんな最近なにかと喧しい東京都知事選(7月14日告示、7月31日投開票)ですが、ここにきて、石原伸晃さん率いる自民都連が「増田寛也さんを担ぐよ」といい始めて、地方政治マニアが「さすがにそれは面白すぎる人選だろ」と総立ちになる展開になっています。もちろん、悪い意味でです。

増田寛也氏を自民党都議団擁立申し入れ決定 都連幹事長「増田氏と歩みたい」 小池百合子氏の余地も(産経新聞 16/7/3)

しかも、増田さん側もまんざらでもないご様子で、うっかりすると本当に出馬してしまいかねない空気になっており、大草原全部枯れる流れです。大丈夫なのでしょうか。

このあたり、大新聞の皆さんはあんまり直接報じるには差し障りがあるネタばかりだそうですので、概要だけでもヤホー読者の皆さまに知っていただきたく不肖この私がご説明申し上げる次第です。

■結論

「実務型」として増田寛也さんが担がれておりますが、その実務でまったく良いところなく岩手県知事を降りたのが増田さんです。単純に、岩手県知事3期12年のあいだに、6,000億あまりだった岩手県の公債費を、1兆2,000億円強にほぼ倍増させて四選めに立候補することなく退任しました。

総務大臣時代は三位一体改革として、地方交付税を財政力の弱い自治体に優先的に配分する政策である特別枠制度を作りました。これは、企業などが自治体に納める法人事業税と法人住民税を地方に配分する仕組みであって、要するに東京都(大阪府、愛知県、福岡県など都市部)の地方法人税を、財政基盤の弱いほかの貧乏都道府県に振り分けるという施策であります。東京都民からすれば、東京都のために使われるべきカネが、この人の総務大臣時代の施策のお陰で東京都と無関係なところに流れていく仕組みができてしまったわけでありますね。

岩手県知事時代、総務大臣時代、そしてその後の「日本創成会議」での東京から地方へカネや人を流していこうという増田さんの主張は、東京都に税金を納め東京都に暮らす有権者にとって非常に不利で、相応しくないものだと判断せざるを得ません。

それでも、東京都は日本のそれ以外の地方の衰退を背負って税金をこれらの地域に移転させるべきだ、と考える人は、増田さんに投票すれば良いのかなと感じます。

また、肝心の実務型とされる増田さんの業績も岩手県知事時代の内容を見るにまったく芳しくなく、むしろ岩手県の借金を倍増させ衰退を決定付けたといっても過言ではありません。もしも「増田さんの手腕を買って都知事にしたい」ということであれば、それは期待できません。

■増田擁立までの流れ

言うまでもなく、増田さんが自民都連によって擁立された背景には「桜井俊さん擁立失敗」→「都知事候補選びが難航」→「突然の小池百合子出馬記者会見」という話があり、説明するべきなのは自民都連のボスである石原伸晃さんと、小池百合子女史の間での不仲が大きな原因とされます。また、ラスボス風である森喜朗さんとも小池女史は折り合いが悪く、二階俊博さんからも「しょうもない人」とDISられています。ダイナミックな嫌われぶりが素敵です。

その小池百合子女史のまずい点は、東京都の有権者から人気がないことです。普通に小池女史を都知事選に担いだところで苦戦するのは仕方がないので、小池女史本人は都知事やりたがっていたけど誰も声をかけませんでした。前回の東京10区では、安倍政権の地すべり的大勝利で都市部ではほぼ自民党が圧勝する中、小池女史は追い風を背中いっぱい受けていたにもかかわらず得票率は50%ちょっとの93,610票しか集めることができなかったのです。

小池百合子 62 自由民主党 前 93,610票 50.7%

(年齢は当時)

もっとも、もともと小池百合子女史は中選挙区時代の旧兵庫2区に厚い地盤を持ち、05年の小泉郵政選挙で造反組に対する刺客として国替えをし、わざわざ東京10区にやってきたという事情ですから、東京での選挙に強くない理由をすべて彼女に負わせるのは酷かもしれません。すべては、自民党の事情によるものです。

とまあ、小池女史はとにかく女性人気に乏しく、政界の渡り鳥的な素性のため、自民都連も積極的に担ぎたくないという気持ちは分かります。

しかし、それ以上に実態としては石原伸晃さんと小池百合子女史の間での心情的な対立が根幹にあることは、現代ビジネスでもすでに報じられているとおりです。

「それでも小池百合子だけはイヤ!」とダダをこねる、党内アンチの小さすぎる肝っ玉(現代ビジネス 16/7/2)

「小池百合子氏は電話に出ない」自民・石原伸晃都連会長が批判(産経新聞 16/6/29)

その理由について、ある東京選出の自民党議員は「もともと、『小池氏ではダメだ』というのは石原氏が小池氏を嫌っているところが大きい。つまりは、小池憎しという個人的な感情で突き進んでいる。個人でそう思うのは勝手だが、参院選の最中に感情を露わにされても、党にマイナスイメージがついて困る」と打ち明ける。

一方で、小池百合子女史は「すでに崖から飛び降りている」ので、よほどのお土産があって天にも昇る気持ちにならない限り、崖を落ちて都知事選には出馬するわけであります。本来であれば、今日4日に石原小池対談があって手打ちでもあるのかと思いきや、まさかの一日順延で5日に再セットされ、自民都連は正式に4日増田さんに出馬を打診する運びとなりました。この時点で、増田さんが首を縦に振って、すでに出馬を決めている小池さんを降ろすことができなければ、担がれた増田さんと崖から飛び降りて自殺する小池女史による与党分裂は確定的になります。

小池女史は不人気ですし公明党も支援しないとなるとまず勝てないわけですが、能力的には未知数で、国粋的な主義主張を観るに一定のネトウヨや右派の支持は集めるわけでして、これに小池同情票でも乗れば、東京都自由民主党が抱える大事な右側票が小池女史に流れることになります。少なくとも、投票率50%とみて有効投票全数が500万票強であるならば、一割にあたる50万票ぐらいはもぎ取るでしょう。どっちにしても勝てませんが。ただ、小池女史が善戦すれば善戦するほど自民支持者票を食いますので「正規軍」増田票が減ることになります。勝ちを確定させるために、何としても自民都連は小池女史に降りてもらわねばなりません。

当落線が200万票から240万票のあいだだとするならば、前回2014年都知事選で反与党票を集めた宇都宮健児さんが98万票、細川護煕さんが95万票で、投票率が46%あまりですから、与党分裂したまま下手に反自民票が宇都宮さんに集まると、うっかり200万票以上取られてしまい、まさかの極左東京都知事が爆誕することになります。ここが一本化されると、宇都宮都知事とかいう東京だか栃木だか良く分からんことになるのも現実味を帯びることとなり、与党分裂している場合ではないのです。このままでは餃子が東京都民の主食になってしまいます。U字工事が出てきたら万雷の拍手を持って迎えなければなりません。

もしも、野党が何らかの手を打って勝てる候補者を用意したり、面倒だから野党4党で宇都宮一本化しようとかなれば、与党分裂の増田寛也さんでは勝ち目がありません。それだけ、小池百合子女史の自爆的出馬の代償はデカいですし、そういう状況にしてしまった都連会長である石原伸晃さんや都連議員団は「勝てるはずの戦を落としかねない」スーパー無能ということになります。せめて、民進党も候補者調整に失敗して、民進党もついでに増田さんに相乗りしてくれることを期待するほかないという寒い状況にあるのです。

そして、そんな無駄な与党分裂を避けるため、地鎮祭風にポストを約束する引き換えに小池女史に降りてもらうプランが日本最高峰のクオリティペーパーである東京スポーツからリークされています。誰ですかこんな玉虫色な情報を流したのは。

小池百合子氏「閣僚ポスト用意」で都知事選出馬取りやめ説(東京スポーツ 16/7/4)

■岩手県知事時代、増田さんは何をやらかしたか

さて、人呼んで「自称実務型」とされる増田寛也さんの3期にわたる岩手県知事時代の業績について説明したいのですが、代表例となる小噺をひとつ。

増田さんが都知事時代、不採算が問題となっていた岩手県の森林公社を整理することになったのですが、日当たりの良い条件の良い山林を県に残し、それ以外の生育の悪い山林を民間に返すという謎の施策を行っております。当然、地方行政をヲチしている人たちからすると「何だあれはという話になりますが、そんなもの高値で買い取る民間などあるわけないです。その結果、材木流通価格の値下がりなどもあり、870億円ほどの公債が残り、岩手県の一般会計から毎年25億円の支出を強いられたりしています。

常識的には、換金のしやすい好条件のものを民間に払い下げ、その原資で負債の圧縮や条件の悪い山林の手入れをするための予算に回すのが筋なんでしょうが、どういうわけか逆をやらかしたという典型的な悪手です。そもそも不採算が問題になってる公社に良い森林資源残してどうしようというのか、いまひとつ理解できません。不採算事業を何とか整理しようとして、もっと多額の負債を背負うというダイナミックな行政手腕がなぜか自民都連には高く買われているようです。

平成27年度「特別会計(地方公営企業法適用事業に係るものを除く)に係る事務の執行及び事業の管理について」

岩手県条例第 16 号公営林造成基金条例

岩手県県有林事業特別会計条例昭和46年3月23日条例第8号

・公債費残高の推移について

過去に造成事業を実施するに際して発行した公債(現日本政策金融公庫からの借入金)の償還額は、平成 30 年後半から平成 50年前半にかけてピークを迎え、平成 72 年に償還が完了するが、平成 26 年度末現在で 871 億円の公債残高(利息を含む)を抱えている。

本事業に係る県外部からの歳入は、立木の売払収入が主たるものであるが、年間 2~4 億円程度であるため、年間約 25 億円の公債の償還額は、一般会計からの繰入金で賄わざるを得ない状況であり、将来の利息負担を軽減する観点からは、繰上償還により早期に残高を減少させることを目指す必要がある。

こういう不思議な債務も積み残しながら財政再建をしたことになっている増田さん時代の岩手県政ですが、県職員に対するリストラなど身内のコスト圧縮は進めつつも、実際には岩手県の借入残高が二倍になったことを、今回よりによって東京選挙区におおさか維新から立候補している田中康夫さん(元長野県知事)に詰められております。

第169回国会 参議院予算委員会会議議事録(19ページ目に問題の質疑)

赤字が追及する田中康夫さん、緑字が釈明する増田寛也さん。これぞ国会答弁文学。
赤字が追及する田中康夫さん、緑字が釈明する増田寛也さん。これぞ国会答弁文学。

結構味わい深い質疑が続いているので、興味のある方はずずいと読んでいただければ、まだ髪の毛が生えていたころの元気な舛添要一さんや共産党が誇るリーサルウエポン大門実紀史先生のお名前なども拝読することができます。

田中康夫: 改革派の知事として知られた増田さんは12年間の在任中に1兆4,000億円と、岩手県の負債を二倍にしてしまったというお話をいたしました。

増田寛也: 就任時に比べて大体借入金残高が二倍になったわけですが、その大きな理由、私は、一つは地方での、地方税の収入がなかなか伸びない、あるいは途中でずいぶん落ち込んだ時期もございまして、やはり地方経済がうまく立ち行かないということが一つ。

では、どういう感じで増田さんが知事時代にやらかしたのか、振り返ってみましょう。

緑で囲った四角が増田岩手県政の12年間。見事なまでの借金倍増で震える。
緑で囲った四角が増田岩手県政の12年間。見事なまでの借金倍増で震える。

緑の四角で囲ったのが増田さんの知事在任時の負債の増え具合です。何ですかこれ。ヤバイ。気持ちいいぐらいに赤字が激増しておりまして、就任直後から公債費の償還額(借りたお金の元金と利子合算の返済額)は一貫して上昇。「もうこれ以上借金できない」までに岩手県が使える予算を全部使い切っております。さすが、実務家型政治家です。

この公債費残高が年度会計の18%を上回ると、国から「馬鹿かよ。再建計画出せや」と言われるわけですが、岩手県は現在提出している書類において、このような抗弁を行っています。

単独事業として平成 10 年に岩手県立大学(4学部)を開学、平成 14 年に多額の地元負担を余儀なくされた東北新幹線の盛岡以北延伸、平成 18 年に岩手県民情報交流センター(愛称:アイーナ(県立図書館など多目的複合施設))を整備したほか、県立美術館、農林水産関係の各研究センター、環境保健センターなどの公共施設等の整備にも積極的に取り組み、本県の教育環境や社会インフラの充実を図ってきたが、一方ではそれに伴う多額の県債残高を抱え公債費負担も高い水準を示している。

平成 15 年度からは、「岩手県行財政構造改革プログラム」を策定し、県債の発行を大幅に抑制したことにより、県が管理可能な県債の残高は減少を続けているが、公債費は平成 26 年度をピークに前後数年間は高い水準で推移する予定であり、厳しい財政運営を見込んでいる。

これ、1995年(平成7年)から2007年(平成19年)までの増田岩手県知事時代に全部起きたことです。要するに、岩手県知事になった増田さんが、アクセル地べたまで踏んで、全力で借金して学校建てたり情報センターや美術館などの箱モノやったり東北新幹線延伸を見込んで地域開発にカネをどんどこ注ぎ込んだわけです。働き手が減っていく中で、箱モノやったところで採算性が改善せず、地域の赤字が増えるのは木下斉さんが各地で伝道をされている内容を読まれると良く理解できるのではないかと思います。

消滅可能性都市のウソ。消えるのは、地方ではなく「地方自治体」である。(木下斉 14/9/7)

その後、ちっとも地域経済が伸びず、借金増やしてまで使った金に見合った地方税が上がらないので、慌てて「岩手県行財政構造改革プログラム」なるものを策定し、今度は全力でブレーキ踏ん張ったもんだから、そのアクセル踏んでた時代に潤ってた県内の事業者が全部死んで、仕事を失った岩手県からの労働人口が大量に流出、高齢者だけが地元に残って岩手県の産業が壊滅しただけでなく若者もいなくなって過疎化が進んだというのが増田さんの治世の概略であります。

この増田岩手県政を知った上で、自民都連に「優れた行政手腕」と言われると「馬鹿なのかな?」と思うわけですが、一連の県政で特段に問題だとされるのが”政策コンサル”に多額の資金を使って、地域振興の政策立案に外部の頭脳を入れようとしてコケた問題です。

必要であるならば後日詳しく記事にしますが、平たい話が地域振興のアイデアを県内から募ろうにもたいして旨みのある話が出てこないので、現在慶應義塾大学におられる上山信一せんせ、東京大学の月尾嘉男せんせ、現在静岡県知事の川勝平太さんなど、政策立案方面の面白コンサルタントの皆さんに合計年間3億円以上のコンサル料金を支払って、微妙な各種政策を「改革派知事」として実施してきたわけであります。

「政治産業にとって、都合の良い”改革派”知事」のカラクリは、この外部コンサル雇用と、経済系御用メディアによる癒着めいた胴上げにあるわけでして、予算がついて潤っている公共系事業者のところばかりが成果として喧伝される一方、年度予算の総額は公債が増やされない限りだんだん減っていくことになるため、干上がる部門が生まれます。

たとえば、岩手郡雫石町南畑という場所では、これらのコンサルタントの指定する会社に情報提供料などとしてに1億円弱を支払ったものの農政の基本が分かっていなかったこともあり事業が難航し、結局岩手県が所有する農業公社の債務を整理しなければならなくなりました。上記森林組合も同様に、働き手が少なく価値が乏しいものについては事業を閉めるというメリハリをつけた撤退戦を行うことなく、ズルズルと赤字を垂れ流したり、活性化しようのないところに多額の金を突っ込んで全損するどころか債務整理に追われることになります。

つまり、地域がきちんと稼げる産業を作るよう支援するのではなく、カネを突っ込めば活性化するだろうというプロセスであったため、頓挫した後、傷口が深くなるわけであります。

極めつけは、増田県政で伝説となっている「地方競馬2法人330億ブッ込み事件」です。衰退著しい地方競馬に労働人口減少に見舞われる岩手県競馬組合に、増田知事が滾る県議会に押し切られる形で07年330億円を突っ込んで地方行政における腐敗の金字塔を打ち立てた物件であります。こんなもん絶対赤字なんだから移転計画前から事業縮小するなり、県議会への根回しをしておくなりしておくのが「実務型知事」の本来の姿のはずで、いまだに過疎い岩手に二つの地方競馬場が赤字を出しながら経営しているのが実情です。なにせ、融資されてしまっている以上は貸し剥がさない限りお金が回って存続してしまいますから。

ちなみに、増田さんの趣味は乗馬だそうです。

■総務大臣時代

増田さんが都知事に成るにあたって、最大の障害になるであろう問題が、この総務大臣時代に行った政策の類です。

広く見るならば、衰退を続ける日本の地方経済を支えるために、一極集中が続く東京や名古屋、大阪、福岡といった地域からその他の道県に税金を回し、日本全体の均衡ある発展を促そう、という理念は分かります。

そこで出てきたのが、地方交付税特別枠制度で、文字通り「東京一極集中」からの是正を行うために、東京都に納める地方法人税や法人住民税の一部を国がプールし、その他道県に分け与えることを実施したのが総務大臣時代の増田さんです。

ところが、この人は要するに東京都民が納めた東京都に対する税金年間約2,000億円を、他の道県に回す政策を実施した、都民にとってはA級戦犯とでもいうべき人物です。ちなみに、これを飲んだのは当時の石原慎太郎都知事でありまして、地方行政について関心を持っている人たちはみんなびっくりしたわけです。それじゃあ単なる国税じゃないですか。ならば、地方税下げて国税庁が法人税を引き上げればそれで済む話なんですが、その当時は時限的措置であるとしてこの制度を総務大臣として断行し、結局なんだかんだでいまでも続いておるわけであります。

それでも東京都が何とかなってきた理由は、一極集中であるからこその高い税収と国際的な競争力の高さで比較的裕福な自治体であったからなんですが、ここで問題となるのは東京オリンピックと、急速に進む首都圏の高齢化、老朽化したインフラの耐震・防災対策といった、老い行く東京の問題です。要は、いまは金は残ってるけどすべての社会的な問題に対応した上で東京五輪までやるよ、となると、あっという間に赤字に転落してしまいます。

そういう東京都民にとって、増田さんが主張していることは東京都にとって望ましいかどうかは意見の分かれるところです。いまでこそ、ふるさと納税やUターンIターン、あるいはシルバー移住といった選択肢が増える中で、増田さんが行った政策パッケージが未来の東京都にとって相応しい代物であるかどうかは良く考える必要があるんじゃないかと思います。

■日本創成会議時代

その後、少子化対策や地方経済の活性化というお題目を高く掲げて、日本創成会議の座長に増田さんは納まるんですけれども、増田さんが突然「日韓グリッド構想」とか言い始めてびっくりするわけであります。

日韓グリッド接続構想の展望は 増田寛也氏に聞く 日本創成会議 座長(日本経済新聞 11/12/29)

お金をかけて日本国内の電力体制を変える目的が韓国との電力融通だという、寝言気味の話をいきなり始めて何なんだろうなあと思っていたところ、今度は「地方消滅」とか言い始めるわけです。

もちろん、地方の人口減少が疲弊する地方経済の引き金であり、人口減少を食い止め日本全体の活力を取り戻す方法論を模索するのは必要なことでありましょう。しかしながら、ここで出てきた解が「人口のダム論」であり、東京に流れ出る人口を食い止める30万人都市を作ることで、全国平均を下回る出生率に過ぎない東京への一極集中を防ごう、という議論であります。この議論には言うまでもなく致命的な欠陥が2つあり、「移動の制限などそもそも国民にかけられず、国民の利便性や幸福を追求した結果首都圏に人が集まっていること」と、もうひとつが「東京の一極集中を避けるために30万人都市が仮にできるとして、出生率が向上するという根拠や証拠は何もないこと」であります。

必然的に、これは「地方消滅」ではなく単なる現象としての「自治体消滅」に過ぎず、もしも地方からのこの人口流出を食い止めたいのであれば自治体の再々編を主張しておいたほうが合理的なんじゃないのかという話になります。実務家であれば、これらの撤退戦をしっかりと見極めてやり遂げるのが筋のはずですが、なぜか難易度の高いほうの30万人都市を作るほうに力点が置かれているあたりにダブルスタンダードというか、増田寛也という人の限界を見るわけであります。

去年、ついに日本創成会議はネタが無くなったのか、禁断の提言を始めました。首都圏で高齢者がたくさん出るので、今後人口減少局面になって高齢者向け施設が余り始める地方都市に老人を送り込むというネオ姥捨て山議論であります。どうしてそこまでして地方に人口を送り込みたいのでしょう。それならば、まだ微妙とはいえコンパクトシティ構想の発展版でも考えていたほうが身の丈に合っているように思います。

それでも、日本の今後の社会保障費の増大を考えるに、どうしても避けては通れない地方の衰退問題に取り組んでいるということで、相対的に増田さんに注目が集まり、何となく実務家として優秀だというゲタが履かされたのではないかと思うわけであります。『地方消滅』は確かにこの問題について詳しくない人にとっては、切実な問題解決のための処方箋と受け止められたかもしれませんが、実際には岩手県の借金を倍にしたり、東京で集めた地方法人税を地方にばら撒いたり、基本的にろくなことをしてない人です。

ただ、有識者を集めての座長業という点ではお座敷芸の上手い人だと言われておりますので、雛壇に真の意味で実務家が副都知事として増田さんを担ぐ格好になれば仕事になるのかもしれない、というのは日本創成会議の一連の顛末から見えることでもあります。

■終わりに

一連の流れでいうならば、岩手県知事をやって赤字を倍増させ、総務大臣となって東京からカネを剥がして地方に流したという点で、実務家としても東京都知事としても相応しくない人物にしか見えないのが増田寛也さんです。これを有能であると担いで候補者に祭り上げる自民都連は集団脳障害を疑うレベルではないかとも感じます。

もちろん、状況として増田さんが出ないとすわりが悪いということもあると思います。そういう場合は、いままでの失敗を真摯に反省し、負債を倍増させた岩手県のような惨状を繰り返さないという総括をしてから都知事候補に名乗りを上げてもらいたいと願います。

一方で、石原慎太郎さんが国政博打に出て都政をぶん投げて、後継の猪瀬直樹さん、舛添要一さんがあの体たらくであった以上、もう都知事選選びを間違えることはできません。

いま必要なことは、まったくベクトルの異なる2つの論点です。ひとつが東京五輪の費用の最適化、もうひとつが中長期で見た東京の都市経営のあり方を描くことです。人口減少下で発展の余地の乏しいなか、最後の高齢化を迎えるのが東京であり、ここで大きく都の運営を間違うと日本全体が沈没しかねないという、極めて重要な局面にあります。

重要なことは、少子化対策、教育、住居問題、耐震化、首都高の建て替えなど老朽化対応、そして高齢化といった、どれも予算の必要な問題に総花的でないメリハリの利いた政策の取捨選択を求められる状況で何をするのか、です。間違っても、不採算な業務に大きく予算を振り分けるようなことはあってはならないのが現在の東京なのだという点で、舛添さんの小額とはいえ不誠実な資金の使途に敏感である東京都民の感性そのものは大きくは間違っていないと思います。

次の世代にどういう東京都を引き継いでいきたいかを都民が考えたとき、短視眼的でない政策を打ち立てられる候補者を選びたい、というのが願いであることは間違いありません。借金をこれ以上することなく、効果的で必要な政策を編み出し断行できる候補者はいるのか、という話でありまして、どうか今回の選挙が都民にとって現状打開の一票となるよう心から願う次第であります。

本稿の最後に「そこまで言うなら石原伸晃さんが都知事選に出ろ」と私の本音を述べたところで、キーボードを打つ手と止めたいと思います。ご精読、ありがとうございました。