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針の山
各地の視察も終わり、リトネは領都でまた跡継ぎとしての勉強と、マザーとの修業に打ち込む。
そんなある日、マザーに連れられて、『針の山』に来ていた。
「あはは。みんな、エサだよ!」
恒例のハダカマラソンを終えたリトネは、グレートハリネズミたちに呼びかける。
すると、子供のハリネズミたちが鳴きながらリトネに群がってきた。
「あはは、くすぐったいって。針を立てるなよ」
持ってきたパンをやりながら、リトネは苦笑する。
興奮した彼らはピーンと針を立てて近寄ってくるので、並みの人間ならスプラッター状態になるのだが、『剛竜拳』をマスターしたリトネは体表面を気で覆っているので平気である。
「しかし、こいつら人懐っこくて意外と可愛いな」
優しくハリネズミの頭をなでる。リトネはすっかり彼らと仲良くなっていた。
そんな様子を、離れたところから巨大なハリネズミとマザーが見守っている。
「よい少年でありますな。魔物である我々とあんなに仲良くなれるとは。『彼』を思い出しますな」
「……ふん。まだあやつは修行中じゃ。父に比べて足元にも及ばぬよ」
マザーはふいっと顔を背けるが、弟子をほめられてちょっとその口元は緩んでいた。
「あのようなお方、二度と出会えぬものとあきらめておりましたが。400年もの長き間、あの『宝』を守っていたかいがありました」
マザーと会話をしているのは、ハリネズミたちの長である。長い年月を生きた彼は、ほかの生物と思念波で会話できるようになっていた。
「いかかです?彼に『勇者の試練』を挑戦させてみれば?」
「まだあやつは勇者というには未熟だが……面白いかもしれぬの」
マザーの顔に悪そうな笑みが浮かぶのだった。
小ネズミたちと遊んでいるところに、マザーと長が近づいてくる。
「あ、長老さん。お邪魔しています」
小ねずみを膝に乗せたリトネは、礼儀正しく一礼した。
「ふふ。いつも美味しいものを持ってきてくれて、感謝しております」
「とんでもない。修業場として使わせていただいていて、こちらこそありがとうございます」
リトネはそういって笑いかけた。
「しかし、あなたは不思議な方ですな。魔物である我々を倒そうとしないのですかな」
長老がそういうと、リトネは首をかしげた。
「そういえば、魔物を倒してレベルアップというのが定番だよな……いや、でも襲ってもこない魔物を倒す意味はないし……師匠、魔物を倒さないと強くなれないんでしょうか?」
「うつけ者!おぬしは現に修業によって強くなっておるではないか。倒す必要などない」
マザーにピシャリと言われてしまった。
「そうだよな……あれ?なら魔物を倒せば倒すほど強くなるって言うのは、うそなのかな?」
「うそではないぞ。魔物を倒してその魔力を吸収して、強くなるという方法もある。自然に『剛竜拳』を使えるようになるには、Dランク魔物を100体ぐらいと倒さねばならんがな」
マザーはそういう方法もあると認めた。
「100体……大量虐殺ですね。理不尽に殺された魔物に恨まれそう」
リトネは恐ろしそうに首をすくめる。
「まさにそのとおりじゃ。あまり理不尽に殺しておると、のろいがかかることがある。正々堂々とした生存競争の上での戦いなら呪いはかからぬがの。どうじゃ?魔物を斃す旅に出てみるか?強い魔物がいるところにつれていってやるぞ」
ニヤニヤしているマザーに対して、リトネはあわてて首を振る。
「遠慮します。地道に修業して力を上げていきます」
それを聞くと、マザーと長は満足そうな笑みを浮かべた。

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