59/205
餌付け
「ご領主様。リトネ様。いらっしゃるのを首を長くしてお待ちしておりました。新しい作物を与えてくださいまして、村人一同心から感謝しております。おかげをもちまして、村はかつてないほどの大豊作でございます」
満面の笑みを浮かべた村長が頭を下げると、村民たちもいっせいに彼にならう。
そのとき、もう一台の豪華な馬車から、怒った顔をしたナディと困り顔のゴールドが降りてきた。
「……どういうこと!ドロンお姉さまが奴隷にならないといけないほど、凶作だったんじゃないの?心配だったから、お父様と一緒に帰ってきたのに!」
近づいてくるなり、村長に詰め寄る。
「ごめん。それ俺が考えた、ナディに現実を知ってもらうための嘘。ゴールド様とドロンさんにも協力してもらった」
リトネがナディの肩に手を置いて、ぬけぬけと言い放つ。
「あなたって人は!私をだましたの!」
またしても手のひらの上で遊ばれていたことを知り、ナディは真っ赤になってリトネをポカポカと叩く。
「こ、こら。やめなさい。これは私も同意していたのだ!」
ゴールドが慌てて止めようとしたが、イーグルに遮られた。
「放っておけ。子供同士のじゃれあいじゃ。前に比べてずいぶんと仲良くなったではないか」
笑みを浮かべているイーグルだったが、二人の喧嘩はどんどんエスカレートしていく。
ついに魔法による戦いが始まってしまった。
「えいっ!『闇氷』」
「なんの!『剛竜盾』」
ナディの氷を、リトネの気の盾がはねかえす。
「すごい!貴族様同士の魔法合戦だ!」
「どっちもがんばれー」
コロンボ村の子供たちは、突然始まった戦いに大喜びして観戦していた。
リトネたちは用意されたパーティ会場に集まる。
「さあ、村の皆で心をこめて作りました。召し上がってください」
外の広場に用意されたいくつものテーブルには、さっそく収穫された作物が並んでいた。
「ナディ。だましていたことは謝るよ。ほら、おいしいよ。とれたてトウモロコシの塩茹でだよ」
リトネは一生懸命ナディの機嫌をとる。
「ふんっ!」
ナディは怒りながらも、リトネからトウモロコシを受けとり、そのまま八つ当たりのように齧りはじめた。
「どう?おいしい?」
「……おいしい」
不承不承ながらも認める。
「ほらほら、ふかしたサツマイモ。バターをつけて食べるとおいしいよー」
「……」
無言で食べるナディ。
「最後は、ジャガイモを切って油であげて、塩をふったもの」
「……悔しいけどおいしい」
リトネから餌付けされ、やっと少し機嫌が直るナディだった。
そのとき、村長が近づいてきて、改めて頭を下げる。
「これらの新しい作物を与えてくださったのは、お世継ぎ様であるリトネ様だとゴールド様から聞きました。改めて御礼申しあげます。おかげで、今年は奴隷にされるものは一人もでず、それどころか税を払ってもかなりの食料を備蓄できます。本当にありがとうございました」
「いえ。皆様ががんばって働いてくれたおかげです。こちらこそ感謝させていただきます」
リトネも丁寧に頭を下げた。
「……この作物をもたらしたのは、あなたなの?」
それを聞いて、ナディは目を丸くする。
「そうだよ。すごいだろう。偉いだろう。われを崇めよ、褒め称えよ」
リトネはナディの前で胸をそらす。
「だから、どうして私の前だとそんな態度をとるの?すごいけど、偉いけど、威張られたら尊敬したり感謝したりする気がなくなるの!」
ぷいっと顔を背けるナディだった。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。