欧米がロシアと最近急速に関係を悪化させていることから、7月8日にワルシャワで開かれる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議はいつになく重要になると前々から言われている。英国の欧州連合(EU)離脱が国民投票で決まった今、ロシアに対する欧米の抑止力強化を目指し、困難で意見が割れかねない事柄を決めなければならない今回の首脳会議は、欧米の同盟が一枚岩であることを試す重要な試金石となりつつある。
ワルシャワでNATOはそれぞれ約1000人からなる多国籍の4大隊をポーランドとバルト海沿岸諸国に展開する決定について確認する予定だ。また、それに先立ち同地域の戦車や砲類を増強する。これはウクライナに軍事介入したロシアに強いメッセージを発することが狙いだ。
ロシアは攻撃する気になれば、これらの新規投入部隊を成功裏に制圧し、バルト海沿岸諸国を占領できることに疑いの余地はないと軍事アナリストら見ている。だが、NATO軍の配備は「仕掛け線」として、ロシアが侵攻すればNATO同盟国すべてとの全面戦争になると同国に伝えることを意図している。この軍事理論は必然的に不快なほど冷戦時と似ている。
■ロシア、強気の反応 すでに軍備増強
バルト海沿岸で軍事的な存在感を高めるNATOに対し、既にロシアは強気な反応を示している。プーチン政権はポーランドとリトアニアの国境に接するロシアの飛び地カリーニングラードに核弾頭の搭載可能なミサイルや戦車、新規部隊を展開した。NATO加盟国政府は現在、首脳会議後にロシアがカリーニングラードに短距離核兵器を配備するのではないかと懸念している。
このため、ワルシャワでの首脳会議でどういう結果を出すかは、欧米同盟の度胸を試す大きな試練になるだろう。
キャメロン英首相は欧米の防衛負担を分担すると決心しており、英国が国外を注視する大国であり続けると示すことに意欲的であることは間違いない。バルト海沿岸諸国とポーランドに展開するNATO4部隊の1つを率いるとの英国の約束は重要なメッセージを伝えている。
とはいえ、英国のEU離脱決定は、有権者の間で内向きの機運が高まっていることの表れだとするもっともな懸念もある。さらに、英国経済が今後急減速または景気後退に直面した場合、国の軍事支出を現在の水準で維持するのは困難になる可能性がある。
ドイツと米国がNATOの強化に強い決意を示していることも強調すべきだ。オバマ政権は、中東から手を引き世界の安全保障への関与を縮小したことを広く非難されてきた。ドナルド・トランプ氏の台頭で、米国の孤立主義が始まったとの懸念も出てきている。こうしたことから、米政府が東欧の防衛に費やす資金を大幅に増やすと約束したのは、大変歓迎すべきことだ。一方、ドイツのシュタインマイヤー外相は最近、NATOは東欧で「軍事力により威嚇している」と非難し、欧米側に疑念があるという誤ったメッセージを伝えた。
ロシア政府は、今回のNATO首脳会議に参加する欧米諸国の主だった首脳が近いうちに退任することを知っている。来年の今ごろにはキャメロン首相とオバマ米大統領は間違いなく退任しており、オランド仏大統領もおそらくその座を退いているだろう。メルケル独首相でさえ、政治的な安定感が数年前に比べて低下しているようだ。
このように政治的、戦略的に先行きが不透明である今、NATO首脳会議で欧米の協調と結束、自信を示すことが極めて重要だ。
(2016年7月4日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.