バングラデシュのダッカで日本人がテロの犠牲になってしまいました。私はかつて国連専門機関で専門職として働いておりましたので、今回の事件は他人事ではありません。
バングラデシュという国は、開発援助業界では親しみを込めて「バングラ」と呼ぶ人もおり、業界人にとっては極めてメジャーな国です。国連機関だけではなく、数多くのNGOも活動しています。
色々チャレンジングな課題もありますが、大変フレンドリーな人々も多く、一回赴任するとファンになってしまう人もいます。職場にいた方でバングラデシュに赴任していた方もいるので、他人様の国という気がいたしません。
また、以前働いていた民間企業にはバングラデシュ出身のエンジニアの方々もおり、一緒に新橋のガード下に飲みに行ったり、嫁探しを手伝うなど、公私共に親しくしていたので、知り合いがいる国という感覚です。ちなみにエンジニアの方々は、なぜか大阪弁がベラベラだったり、かなり難解な日本語の文章もスラスラ読みこなすというスーパーエリートでした。
今回犠牲になられた方々は、発展途上国のインフラの発展につくしてこられた日本人の鏡のような方々です。発展途上国の案件というのは、先進国のようにスムーズにはいかず、大変な忍耐力と臨機応変さ、オープンな心が必要です。生半可の根性で勤まる仕事ではありません。お金ではなく、使命というか、責任感というか、そういう心意気のある人達が頑張っています。
事件のことをニュースで耳にし、本当に悲しくなりました。国をよくしよう、少しでも人々を助けようという志高い方々が襲われてしまったのです。改めてご冥福をお祈りします。
ところで人質になった方の中には「日本人だから撃たないでくれ」といった方がいるという噂があります。あくまで噂ですので本当かどうかはわかりません。しかし日本でニュースを見ている方々は「日本人といっても殺されてしまうのか」と思われたかもしれません。
日本にいる方々の少なからずは、海外における日本のイメージというのは、他国とはちょっと違うと思われているのではないでしょうか。
憲法第九条があり、太平洋戦争後は他国と戦闘していません。人々は親切で、発展途上国には開発援助を通して多大な貢献をしています。旅行者はマナーが良く、金払いも良い。真面目で約束を守る。
そんな前提があるから「日本人といえばどこでも歓迎されるだろう、まさか攻撃されないだろう」と思っている方多いのではないでしょうか?
しかし実態は違います。
まず、日本人のイメージが良いというのは本当です。ただし、それは一緒に仕事をすると、時間を守るとか、アパートを貸しても汚す可能性が低いという、一面のことに過ぎません。
一方で、日本の政治的、経済的イメージというのはかなり違います。
現在紛争をやっている国にとっては、日本というのはアメリカのお仲間です。金持ちの先進国で、アメリカやイギリス、フランスと仲が良く、彼らの一員です。
今回日本が「十字軍である」呼ばれたようですが、それは、日本がアメリカ側の国だと認識されているからです。これは最近の話ではなく、随分前からです。今の政権の政策が原因というわけではありません。
例えば、国際テロ組織アル・カーイダは、イラクに部隊を派遣していたアメリカや、アメリカを支持する国々を非難し、日本も攻撃対象国の一つとして名指ししていました。
憲法9条があろうがどうか、軍隊ではなく自衛隊だ、そんなことも関係ありません。そもそも海外の人々の大半は、日本は戦争しませんと憲法に書いてあるということは知りません。自衛隊は軍隊だと思われています。軍隊ではなくて自衛隊だ、なんてニッチなことを知っているのは、政治学科で日本研究をしている奇特な日本マニアと、国際政治マニアだけです。(ところで今のトレンドはアジアに関しては中国研究ですから、日本研究をやっているのは相当な趣味人です)ですから、日本は平和国だと思われているだろう、は、ただの思い込みに過ぎません。
次に、日本というのは、落ちぶれかけているとはいっても、世界で最も豊かな国の一つですが、お金持ちであることのイメージは、時と場合によって、良く作用する場合も、悪く作用する場合もあります。
例えば日本人は欧州でさえもスリや強盗の標的です。
私がイタリアに住んでいる時には、日本人職員をピンポイントで狙った強盗が連続で起こったことがありました。通勤時間帯、通勤経路を狙って、朝っぱらからバイクで追い剥ぎをやったり、歩いているところを後ろから凶器で殴りつけてモノを取っていくのです。殴られた人は病院送りになりました。
日本人は、時計やカバンに携帯、服など持っているものも高級ですし、体が小さいので反撃してこないことを知っています。
スリや詐欺が多発する街だと、日本人はトロイので簡単に騙せることがよく知られています。ですから、ローマやロンドン、それにパリでは、ニセ警官やケチャップ強盗、ATM詐欺のターゲットになります。ニセ警官に騙されてキャッシュカードの暗証番号を教えてしまうような人もいます。調べるから見せろと言われ、現金を渡してしまったり、パスポートを渡してしまうような人もいます。事実私の知り合いが被害にあっています。
強盗やスリが頻発するところでは、日本人だと公言したりバレるような行動を取るのは自殺行為です。
また豊かな国ですから、身代金目当ての誘拐のターゲットにもなりやすいです。誘拐ビジネスが盛んな国では、行動履歴や滞在場所などを明らかにするのは危険です。私は日本人です、と公言するのは、襲ってくださいと言っているようなものです。
残念ながら、日本の外は、国際親善、人類皆兄弟などという思想を持った人は少数派ですから、不特定多数や見ず知らずの人間に日本人だと強調する利点はありません。リスクが高まるだけです。
3つめに、日本は、かつて中東の過激派運動やテロを主導しており、中東を中心に過激派に多大な影響を与えた国だということは知っておく必要があります。
お若い方は知らないかもしれませんが、かつて日本には日本赤軍という組織がありました。この組織は、新左翼組織で、マルクス・レーニン主義の高学歴の若者で構成されていました。かつては世界で最も恐れられていたテロリストです。英語ではジャパニーズレッドアーミーと呼びます。
重大事件等を展開した日本赤軍その他の国際テロリスト(警察庁)
テルアビブ空港乱射事件では、イスラエルのテルアビブで無差別射撃事件を起こします。24人死亡、76 人重軽傷という大事件でした。オランダのハーグのフランス大使館の襲撃事件、クアラランプール事件、ダッカ事件など、次々と世界を震撼させる事件を起こしています。
一般人を巻き添えにする無差別襲撃、自爆を含めた攻撃というのは、それまであり得なかった形だったので、中東圏を中心に、テロの形を変えてしまったという説もあります。そして、当時は高度経済成長期だった日本の高学歴の若者達が、日本とは縁もゆかりもない様な国で事件を起こしたのも衝撃的だったのです。
現在世界各地で起きているテロは、不特定多数が対象であり、何人だから襲う、何人は襲わないという単純なものではありません。
リスクを最小限にするには、目立たないこと、不特定多数が集まる場に行かないこと、リスクの高い都市や地域を避けること、家族や親類とは連絡を取れるようにしておくこと、逃げられる服装や靴で出歩くこと、身を守る方法を学んでおくこと、ぐらいしかありません。
海外に行く場合は最低限の英語を身につけておきましょう。最低限の単語と伝える意志があれば何とかなります。6月16日に発売になった新作書籍「国連でも通じる 世界の非ネイティブ英語術」でそのあたりのことを説明してあります。
嫌な時代になってしまいました。