人々が集う日常の空間を、またもテロが無残に切り裂いた。

 バングラデシュの首都ダッカで武装集団がレストランを襲撃し、多数の客を殺害した。

 この国の発展のために日本の経済協力事業に取り組んでいた7人の日本人のほか、主要な輸出産業である衣料ビジネスで働くイタリア人、米国の大学に通う学生らが犠牲になった。

 断じて許すことのできない卑劣な凶行である。

 過激派組織「イスラム国」(IS)を名乗る犯行声明が出たが、背景はまだ不明だ。日本政府は今後の安全対策のためにも現地当局と積極的に協力し、情報収集を進めてもらいたい。

 中東・アフリカから欧米、そしてアジアへ。テロは地球規模に拡散したといってよい。

 チュニジアでは博物館、フランスではコンサート会場や飲食店、ベルギーとトルコでは国際空港が狙われた。共通点は、市民や外国人が集まり、警備が難しい場所が襲われたことだ。

 市民の暮らしを狙う無差別暴力は自由への挑戦であり、今回も国連安保理を含む国際社会が強く非難したのは当然だ。

 各地のテロにかかわったとされるISは、本拠のイラクとシリアで劣勢に立たされている。かわりに世界各地の支持者にテロを呼びかけて、影響力の維持を図ろうとしている。

 最近は、その国で生まれ育ちながら、ネットでISに感化されたり、IS支配地に渡って訓練を受けたりした若者の関与が目立つ。今回も、現地の若者が実行したとみられている。

 各国政府は綿密に情報を共有し、資金や武器の流れを断つなどして、テロの拡散防止に向けた結束を強める必要がある。

 同時に、根本原因から目をそむけてはなるまい。なぜ若者はテロに手を染めるのか。

 バングラデシュでは近年、安くて豊富な労働力が外資を呼び込み、年6%台の経済成長が続いた。半面、格差が広がり、学歴があっても大した仕事に就けない若者も増えていたという。

 「穏健なイスラム社会」とみられてきたこの国で、現状への不満が過激思想へと転じる下地は静かにつくられていたのだ。

 日本人もテロへの備えを強めざるを得ないが、心配なのは「外国は怖い」という意識が国際支援への関心や投資の意欲を冷え込ませることだ。

 途上国の発展の道が断たれ、若者が希望をなくせば、テロのリスクは膨らむ。貧困や格差の解消に向けて、どう世界に関与し続けるか。グローバル化時代の各国に課された宿題だ。