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【私説・論説室から】

悲しいときも指笛は鳴る

 元海兵隊員の米軍属に殺害された女性を悼み、基地があるために繰り返される事件に抗議する沖縄の県民大会は、地元を代表する歌手、古謝(こじゃ)美佐子さんの歌から始まった。

 曲は「童神(わらびがみ)」。初孫の誕生を祝って、一九九七年に作られた曲だ。「暑い日や寒い日、雨や風の日には、子どもを守る盾になる」と、幼子へのあふれる愛情を歌っている。

 真夏の太陽が照りつける那覇市の会場を黒服を着た六万五千人が埋め尽くした。三線をつま弾きながら情感を込める古謝さんの歌に人々は水を打ったように聴き入った。拍手とともに、あちこちから甲高い音が聞こえた。

 フィー、フィー、フィー、フィー。

 指笛だった。沖縄の人は指笛が上手だ。陽気な場面でしか聞いたことのない指笛が、こんなにも胸に染みたことはない。街を歩いていただけの女性がなぜ、二十歳の命を奪われなければならなかったのか。親たちはなぜ、大切な一人娘を失わなくてはならなかったのか。

 私は思う。沖縄に生きる古謝さんが、ほかでもない、「童神」を集会の始まりに選んだのは、大切な娘を守りたかったという親の思いの代弁だったのではないかと。

 こんなにも無残に、また沖縄の女性の命が奪われてしまったことへの怒り。やりきれなさ。その思いに応える指笛に会場はひとつになった。言葉よりも深く悲しみを伝えるあの指笛の音が耳に響いている。 (佐藤直子)

 

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