文/小泉悠(未来工学研究所)
ロシアの軍事力は大したことないのか?
2014年にロシアがウクライナに対して軍事介入を行い、翌2015年にはシリアに対する介入も開始したことで、「軍事大国」としてのロシアに再び脚光が当たっている。
だが、シリア作戦で世界を驚かせた巡航ミサイルによる長距離精密攻撃は全体のごく一部に過ぎず、全体としてみればロシア軍の攻撃手段は昔ながらの無誘導兵器に大きく依存しているのが実態である。
現代戦で鍵とされている「C4ISR」(指揮・通信・統制・コンピュータ・情報・監視・偵察)といったハイテク作戦能力でもロシア軍は米国など西側先進国の軍隊に対して大きく遅れを取っており、特に宇宙監視システムや無人航空機などの分野では米国に遠く及んでいない。
経済的・技術的制約を考えれば、ロシア軍が見通しうる将来に西側先進国並みの能力を獲得する見込みも薄いだろう。
では、ロシアの軍事力などやはり大したことはないのか、というとそれも早計である。
そもそもNATOとの全面戦争は考えがたいという情勢認識をロシアは冷戦後の早い段階から示しており、したがって「ロシアとNATOもし戦わば」といった古典的な構図でロシアと西側の軍事力を比較してもあまり意味はない。
重要なのは、ロシアが「軍事力に期待する役割」を果たし得る体制になっているのかどうかである。
では、ロシアが軍事力に期待する役割とは何か。