電通デジタルマーケティング 鳥の目・虫の目
SEOをデータサイエンスで効率化する「データドリブンSEO」誌上ワークショップ

これからのSEOは、大量データをデータサイエンスの力を駆使していかに効率的に行っていくかがポイントになる
電通デジタル 2016/7/4(月) 7:00 tweet29このエントリーをはてなブックマークに追加 印刷用

Webサイト運営において、SEO(検索エンジン最適化)は当たり前の取り組みだが、極めるとなると実は奥が深い。

検索クエリをはじめ、関連データをさまざまな角度から分析すると、単なる「検索エンジンからの集客」にとどまらない、ユーザーをより深く理解するためのヒントが見つかる。このような、データ分析を起点にした施策が「データドリブンSEO」だ。

今回は、電通デジタルの吉田初氏とデータアーティストの山本覚氏によるデータドリブンSEOのプロセスを誌上ワークショップ形式でお届けする。

SEOに取り組んでいるWeb担当者は、データのどのような点に注目すると、どのような気付きや傾向が読み取れるのか、参考にしてほしい。

本連載「電通デジタルマーケティング 鳥の目・虫の目」では、株式会社電通デジタルで活躍しているプランナーたちが、現場で実践しているデジタルマーケティングの取り組みを具体的に紹介していく。

以下は、今回とりあげるテーマのポジショニングマップだ。

SEO×データドリブンのアプローチ

吉田 初 氏
株式会社電通デジタル
統合ソリューション事業部
ソリューションマネジャー

吉田初(以下、吉田) さっそくですが、今回は夏前ということで、「ダイエット」をテーマに深掘りしていきます。次の3つの視点から、データの取得と分析をします。

  1. ユーザーの検索行動の傾向を知る
  2. 現状のサイト状況を知る
  3. ユーザーインサイトを知る

まず「1. ユーザーの検索行動の傾向を知る」について、Googleサジェストで出現するキーワードを取得します。

図1 Googleサジェストによるダイエット関連キーワードの例

図1のようにキーワードを拡張し、「ダイエット」関連の約2600件のキーワードを取得しました。それらをクラスタリングし、直観的に把握できるように描画してみましょう。

図2 Googleサジェストで拡張したキーワードをマップ化
山本 覚 氏
データアーティスト株式会社
代表取締役社長

山本覚氏(以下、山本) 図2のとおり、「ダイエット」を中心に、7つのクラスタに分けることができました。

各キーワードのクラスタ分けについては、キーワード間の関連度をもとにネットワークを作り、近くにあるものを同じクラスタとして同色で描画しています。

また、円の大きさは検索数を表しています。「ダイエット」から直接つながっている「食事」「運動」などでは、該当クラスタの総検索数になっています。

表1のように、各クラスタには数百キーワードが属して、図2では検索数の上位10件までのキーワードを描画しています。

表1 「ダイエット」関連キーワードの数と月間平均検索回数
クラスタ該当KW数月間平均検索回数
食事931434,165
運動472157,435
効果51299,464
サプリ975,652
ブログ25268,744
成功26646,200
女性16417,133

ここから「ダイエット」検索ユーザーの傾向をまとめると、次のように分けられます。

  • 食事/サプリ――食生活での改善を目指している人
  • 運動――運動による改善を目指している人
  • 成功/効果/ブログ――ダイエット体験談や事例を調べている人
  • 女性――女性ならではのダイエット事情を調べている人

検索数から、「ダイエット」を食生活の改善と考えている人が多く、運動クラスタは検索行動が少ないことがわかります。「できれば楽をして痩せたい」ということでしょうか(笑)。

吉田 最近は、低糖質のダイエットなども注目されていますし、「ダイエット」で上位表示をねらいたいサイトであれば、食事関連はおさえておくべきポイントになりますね。

クラスタごとの月別検索数の推移(表2)を見ると、特に夏前の5~6月にトレンドが高まっていますが、「運動」と「サプリ」クラスタは1月がもっとも高い数値になっています。

表2 クラスタごとの月別検索数の推移
クラスタ 食事 運動 効果 サプリ ブログ 成功 女性
該当KW数 931 472 512 9 252 266 164
1月 537,500 194,230 98,020 91,280 69,800 55,540 18,720
2月 434,630 159,120 99,660 74,760 83,930 45,050 16,070
3月 432,210 186,890 103,280 74,240 74,200 51,970 18,270
4月 483,410 165,370 100,260 75,810 57,470 52,710 17,560
5月 544,890 159,570 118,950 95,110 76,600 55,390 20,240
6月 515,690 155,150 127,640 89,970 84,590 48,740 20,960
7月 407,190 174,260 114,640 74,090 71,910 43,620 18,250
8月 380,070 158,150 91,950 73,830 54,820 40,530 16,270
9月 413,990 126,430 82,330 75,360 54,430 36,990 15,040
10月 429,090 132,500 100,240 63,200 71,390 44,660 16,090
11月 360,560 147,630 88,570 60,290 73,350 44,390 15,330
12月 270,750 129,920 68,030 59,880 52,440 34,810 12,790

トレンドに合わせてサイト運営をするなら、「運動」に関するコンテンツは年始から力を入れると効率が良いということです。

検索結果上の競合との比較分析

吉田 続いて、「2. 現状のサイト状況を知る」です。

キーワードとニーズの傾向がわかったところで、SEOの順位データをさらに描画してみましょう。

次の3社は、事業上は直接的な競合関係ではありませんが、Googleでの「ダイエット」検索時においては競合サイトの関係になります。

  • A社: 某ダイエットメディア(「ダイエット」単体でも上位表示しているメディア)
  • B社: 某オウンドメディア
  • C社: 某ダイエットサービス

A社については、「ダイエット」単体でも上位に表示されているメディアですが、図3を見ると、関連キーワードでもっとも検索量の多い「食事」関連においても、ほとんどのキーワードで上位に表示されていることがわかります。

B社と比べると、対応できていないキーワードの差が見えてきます。

図3 「食事」クラスタの3社比較

「運動」においても3社の傾向は大きく変わらず、A社が幅広いキーワードで上位表示されていることがわかります。

図4 「運動」クラスタの3社比較

山本 中心となる「食事」(クエリは「ダイエット 食事」を指す)や「運動」(クエリは「ダイエット 運動」を指す)で上位表示されているサイトでは、関連キーワードでも上位表示されやすいということでしょうか。

吉田 どちらかというと、「ダイエット 食事」といった広義なキーワードで評価されるには、「ダイエット 朝ごはん」「ダイエット プロテイン」といった、関連するキーワードで評価されるコンテンツを保持していることが条件になっていると考えられます。

したがって、いきなり広義なキーワード単体でSEO上位表示をねらうのではなく、計画的にどのクラスタにあたるキーワードを網羅していくかを考えて、コンテンツを展開していくことが望ましいでしょう。

山本 SEOのキーワード戦略では、クラスタごとに1つずつ対応していくと効率が良いということですね。

ここでもう少し深いデータを使って、たとえば「食事」と「運動」クラスタ間につながりがあるのか、なども見てみようと思います。

「ダイエット」関心層の行動をひも解く

山本 続いて、「3. ユーザーインサイトを知る」です。

このあたりから、われわれの知見が活きてくるところになります。先ほどは、キーワードのバリエーションやニーズがわかりましたが、弊社で取得しているデータには「ダイエット」関心層の行動データなどがありますので、いくつかご紹介します。

図5は、DMPデータをもとにユーザーの検索クエリや閲覧ページのデータを集計しキーワードに落とし、クラスタリングしています。

図5 「ダイエット」に関連するキーワードのクラスタ

検索行動だけでなく、外部サイトのデータなども拾っているため、「ダイエット」の広いニーズを取得できています。

この状態でもいくつかのクラスタに分類できていますが、これをさらにユーザー行動データを時系列で描画したものが図6です。

「ダイエット」にたどり着くまでには、大きく4つの経路があるということが見えてきます。

図6 「ダイエット」に至るまでの接触キーワード(クラスタ別)の時系列推移

吉田 4つの経路の中で、「ダイエット」手前の「健康食品」と「トレーニング」クラスタについては、ユーザーのダイエット思考も高まっていると考えられるので、重要なポイントですね。

先ほど抽出した「食事」や「運動」クラスタのなかにも、「食事」であれば「お茶」や「サプリ」よりも直接的な「健康食品」の方が「ダイエット」につながるなども、実際の運用面ではおさえていきたいところです。

山本 与件として、刈り取りや直接コンバージョンを重視する場合は、「ダイエット」の手前からキーワードやコンテンツを攻略すると良いと思います。

一方で、新たなマーケットを開拓し新規ユニークユーザーを増やすために、時系列の頭にある「医療」や「ファッション」から対応していき、ユーザーの態度変容を促していくこともできると思いますので、この辺りはサイト運営者との会話が必要になりますね。

吉田 態度変容や回遊促進がSEOコンサルティングの範疇外のように思われがちですが、サイトの理想形は「ユーザーにとって有益で価値のあるコンテンツ」の集合体だと考えています。

1つの優良なコンテンツを作ることは難しくはないと思いますが、その集合体を作るにあたって、参考になるデータですね。

「ユーザーにとって有益で価値のあるコンテンツ」の集合体を目指すにあたって

吉田 いろいろなニーズに対応したコンテンツを広げていくと、導線設計が課題になっていきます。メディアであれば、どの記事からどの記事をレコメンドすると良いかなども考えたいですね。

山本 ユーザーの回遊についても、外部のデータも積極的に活用いただくのがよいと考えています。

あるサイトで、ダイエット関連の記事を読んだ人が同サイト内でどのような行動をとったかについてのサンプルをお見せします。

図7 某女性向けメディアにおける「ダイエット」関連記事に付与されたタグのクラスタ

図7のように、「ダイエット」に関する記事でも、「クリスマス」のようなイベント軸で語っている記事や、「くびれ」などの体の部位に関する記事など多様にあります。それらをクラスタリングしたものから、クラスタ間の遷移状況を取得したのが表3です。

表3 クラスタ間の遷移状況
TO
Cluster No.c1c2c3c4c5c6c7c8c9c10c11
F
R
O
M
c192%0%7%0%0%0%0%0%0%0%0%
c21%92%6%0%0%0%0%1%0%0%0%
c31%0%98%0%0%0%0%0%0%0%0%
c40%0%4%96%0%0%0%0%0%0%0%
c50%0%0%0%100%0%0%0%0%0%0%
c63%0%17%0%0%80%0%0%0%0%0%
c75%0%16%0%0%0%74%3%0%1%1%
c80%1%3%0%0%0%1%94%0%0%0%
c90%0%3%0%0%0%0%0%97%0%0%
c100%0%3%0%0%0%6%0%0%91%0%
c1115%0%0%0%0%0%0%0%0%0%85%

クラスタ別で見ると、同クラスタ間しか遷移しないものと、表3c3のように、別クラスタから遷移しやすいクラスタが検出されました。これをまとめると図8のようになります。

図8 「ダイエット」関連記事に付与されたタグのクラスタ間の遷移状況

この事例では、「イベント」に関する記事への遷移がもっとも多くなっています。

女性系メディア特有かもしれませんが、女性がイベントごとを大事にしているのもわかる気がします。その他、「原因」から「糖質ダイエット」の遷移があり、「糖質ダイエット」から「運動」の記事に遷移している傾向も見られました。

吉田 なるほど。新規サイトを立ち上げるにあたっては、外部サイトにおける事例があると導線設計も考えやすくなりますね。

既存サイトでは、図8のように自サイトのコンテンツ間の遷移を、クラスタ化してみると視覚的にわかりやすいですね。

あらためて、実際にサイトを訪れている人たちの行動分析の重要性を感じました。サイト内の導線がユーザーライクであることも、「ユーザーにとって有益で価値のあるコンテンツ」の集合体を目指すにあたって、押さえていきたいと思います。

ワークショップを終えて――ユーザーニーズに応える「本当のSEO」のために

吉田 検索エンジンは、検索ユーザーにとって有益で価値のあるコンテンツを判別して提供するためのアルゴリズムを備え、それを日々進化させています。

たとえば、Googleのモバイルフレンドリーアップデートでは、Webページがスマホに最適化されているかどうかを評価の対象にするようになりました。

このようなアルゴリズムのアップデートにあわせたサイト側の対応、つまり“検索エンジン最適化”は非常に重要です。しかし、SEO対策の相談をいただくなかで、いまだにアルゴリズムを追いかけた施策(たとえば「キーワードはどの程度含むべきだ」といった旧来のSEO施策)を求められるケースは多く、本来の目的である「検索ユーザーにとって有益で価値のあるコンテンツを提供すること」がおろそかになっていると感じることがあります。

また、「有益で価値のあるコンテンツ」の判断を検索エンジンにゆだねることで、結果として「検索結果の上位に表示されるもの=良いコンテンツ」「上位に表示されないもの=悪いコンテンツ」という認識が定着しています。

そのため、検索結果の上位にあるサイト(コンテンツ)を模倣した、どこにでもある当たり障りのないコンテンツばかりが増えています。これは、検索ユーザーにとって有益なコンテンツを提供するという点では疑問が残ります。

検索エンジンのアルゴリズムを追いかけることや、模倣的なコンテンツ制作によるSEOを脱却するには、サイト運営者が「検索ユーザーが本当に求めていることは何か」を知り、サイトに反映していくことが必要ではないか。それこそが、本当の意味でのSEOではないか。

このような考えを出発点に、今回は山本さんにご協力をいただき、データサイエンスの知見を活用してSEOを深掘りし、検索ユーザーにとっての最適解を探ってみました。

山本 データサイエンスの知見をSEOに活用したいというご相談はいままでなかったので、非常に新鮮なテーマでした。

実際に分析してみて、あらためてデータサイエンスとSEOの親和性は高いと実感できました。

普段はLPO(ランディングページ最適化)に用いるためにユーザーインサイトを探ることに注力していますが、今回のようにCRO(コンバージョン率最適化)の隣接領域である検索エンジンマーケティングでも、その知見をあまり変化させることなく活用できたことは大きな発見でした。

これによって、SEOからSEM(検索エンジンマーケティング)、CROまで個別に最適化していたものが一気通貫して、本質的にすべてつながる期待が持てました。

吉田 「検索者が本当に求めているのは何なのか」を知るにあたり、山本さんにさまざまなデータを抽出・分析してもらいました。

「ダイエット」というテーマ1つだけでも、ここまで深掘りしてさまざまな角度から見て、多くの気付きを得られるというのは、良い時代になったなと思います。

実際のコンサルティングの現場では、依然として1つのテーマを深掘りするということはまだ浸透しきってはいませんが、必ず見ていかなくてはいけないポイントです。今後も、データ領域をSEOに積極的に活用できるよう取り組んでいきます。

今日はどうもありがとうございました。

山本 こちらこそ、ありがとうございました。

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