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モノシリンの3分でまとめるモノシリ話

モノシリンがあらゆる「仕組み」を3分でまとめていきます。

作者の連絡先⇒ monoshirin@gmail.com

【拡散希望】自民党テレビCMの真実

アベノミクス

最近自民党のテレビCMを目にするようになった。

 

結論からいうと,このテレビCMで謳っている「アベノミクスの成果」は全てインチキ又はアベノミクスと無関係なものである。

このようなCMによって国民の投票行動が決まるようなことがあってはならない。このブログを見た人は是非全力で拡散していただきたい。

 

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まずここから突っ込みを入れていく。

雇用110万人増はアベノミクスと無関係

これは前の記事でも書いたことだが,私のブログを初めて見る人もいると思うのでまた同じ事を書く。

まず,押さえておかなければいけないのは,アベノミクス3年間で確実に日本経済は停滞したということである。これは,むりやり物価を上げた影響で,GDPの6割を占める消費が冷えたからである。グラフを交えて説明する。

アベノミクス3年間で,
1.物価が急上昇したのに(赤)
2.給料はそのまんまだったので(オレンジ)
3.物価を考慮した実質賃金が下がり(青)
4.消費が急激に冷え込んだ(緑)

 

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毎月勤労統計調査 平成27年分結果確報|厚生労働省

総務省統計局統計表一覧

統計局ホームページ/家計調査 家計消費指数 結果表(平成22年基準)

 

そして家計消費の低下が実質GDPの6割を占める実質民間最終消費支出の低下に直結した。

アベノミクス前よりも下がってしまったのである。

増税でただでさえ物価が上がるというのに,黒田バズーカで無理矢理円安にしたのでさらに物価が上がってしまった。

消費者は往復ビンタを食らったような状態になるので,消費が下がるのは当然の結果である。

 

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内閣府の統計データを元に作成。

 

下記のグラフは上記のグラフの期間を過去22年間にまで広げたもの。見てのとおり,実質民間最終消費支出は基本的に右肩上がりなので下がること自体が滅多に無い。

下がったのは過去22年間でたったの5回。そのうち2回をアベノミクスが占める。

そして,「3年前より下がる」という現象が起きたのは,あのリーマンショックの翌年2009年以来の超異常現象

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内閣府の統計データを元に作成。

 

この民間消費の異常な冷え込みが大きく影響し,3年間で比較すると,結局安倍政権は民主党政権の約3分の1しか実質GDPを伸ばすことができなかった。

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内閣府の統計データを元に作成。

 

アベノミクスの失敗が良く分かったと思う。経済が停滞したのに物価だけは上がったので,スタグフレーションに陥っているというべきなのである。

日本経済をデフレから脱却させて,もっと最悪なスタグフレーションに導いたのがアベノミクス

だから「景気が良くなって雇用が増えた」とは到底言えないのである。

さて,ここからが本題。

結局アベノミクスがやったことは,金融緩和によって無理矢理円安を進行させたことだけである。したがって,「アベノミクスで雇用が増えた」というためには,「円安」との因果関係が認められなければならない。

 

そこで下記の表をご覧いただきたい。これは,この3年間で増えた雇用を産業別にふりわけ,多い順に並べたものである。

 

NO 業種
平成24年

平成27年
増加
雇用者
(②-①)
1 医療,福祉 676 751 75
2 その他 37 68 31
3 卸売業,小売業 938 963 25
4 情報通信業 180 200 20
5 宿泊業,飲食サービス業 311 324 13
6 複合サービス事業 47 59 12
7 教育,学習支援業 267 278 11
8 不動産業,物品賃貸業 98 107 9
9 学術研究,専門・技術サービス業 157 166 9
10 公務(他に分類されるものを除く) 224 230 6
11 製造業 980 984 4
12 漁業 5 8 3
13 農業,林業 52 53 1
14 鉱業,採石業,砂利採取業 3 3 0
15 電気・ガス・熱供給・水道業 31 29 -2
16 建設業 411 407 -4
17 運輸業,郵便業 326 321 -5
18 金融業,保険業 159 150 -9
19 生活関連サービス業,娯楽業 184 175 -9
20 サービス業(他に分類されないもの) 418 364 -54

出典:統計局ホームページ/労働力調査 長期時系列データ

 

上位を占めているのは円安とほとんど関係の無い産業ばかりである。1位の医療・福祉は高齢化によって増えた介護需要によるものだろうし,3位の卸売り・小売業は基本的に内需頼みである。円安だと仕入れ値が上がるからむしろマイナスしかないだろう。その他の産業も基本的に内需頼みのものばかりである。

アベノミクスで消費が冷えていなければもっと増えていたかもしれない。

 

他方で,円安の恩恵を受けたであろう製造業はたったの4万人しか増えていない。 

雇用者数を見ると製造業は産業別で最も多い(984万人)。しかし,この3年間では4万人しか増えていないのである(980万人⇒984万人)。

なぜか。それは,下記のグラフを見ると分かる。これは,平成22年を100とした場合の輸出金額指数,輸出価格指数,輸出数量指数をグラフにしたものである。

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出典:他の年月の統計表一覧 政府統計の総合窓口 GL08020102

 

輸出金額とはつまり輸出した金額の合計額であり,輸出価格とは「単価」である。

上記のグラフを見ると,円安の影響で単価が上がり(赤),それによって輸出の合計額(青)も上がっていることが分かる。

しかし,数量(緑)は変わっていない。むしろ,落ちている(91.6⇒89.8)

円安で日本の輸出品がたくさん売れるようになったわけではないのだ。

ただ単に,単価が上がったので儲かっただけ。

数量が変わらないのだから,製造の人手を増やす必要は無い。だから4万人しか増えていないのである。

 

中小製造業にとっては本当に苦しい3年間だったのではないか。円安で材料の単価が上がるが,取引の数量が増えるわけではない。円安で儲かるのは最終的に海外に完成品を売る大企業だけ。その大企業に国内で部品等を納入する中小製造業には円安の恩恵はないだろう。

以上のとおりであるから,雇用増加はアベノミクスと全然関係ないのである。

 

国民総所得36兆円増のカラクリ

これは超インチキである。指摘する点は2つ。

1点目~実質GDPが悲惨なのをごまかしている~

まず,自民党国民総所得を持ち出したのは,国内総生産(GDP)が全然ダメなのを隠すためである。

国民総所得とは,内閣府の説明によれば下記の通りである。以下引用する。

GDP(Gross Domestic Product)=“国内”総生産
GNP(Gross National Product)=“国民”総生産


※ 93SNAの導入に伴い、GNPの概念はなくなり、同様の概念として“GNI(Gross National Income)=国民総所得が新たに導入された。

GDPは国内で一定期間内に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額。 “国内”のため、日本企業が海外支店等で生産したモノやサービスの付加価値は含まない。
一方GNPは“国民”のため、国内に限らず、日本企業の海外支店等の所得も含んでいる。

以前は日本の景気を測る指標として、主としてGNPが用いられていたが、現在は国内の景気をより正確に反映する指標としてGDPが重視されている。

要するに,国民総所得には,グローバルに展開する大企業が海外で得た儲けが含まれるということである。昔国民総生産と呼んでいたものとほぼ同じ概念。

極端な話,日本国内の経済が停滞していても,海外での儲けが大きければ,国民総所得は増える。

つまり,国民総所得は国内経済の状態を正確に反映できないのだ。

だから,内閣府も言うとおりGDPが重視されるのである

我々一般人にとって関係あるのは国内経済なので,重視すべきは当然実質GDPである。

ここで,実質GDPの推移を再掲する。

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内閣府の統計データを元に作成。

 

約10兆円ほど伸びたが,それは民主党政権時代の3分の1に過ぎない。2014年なんか前年比マイナスですからね。

このように,実質GDPが全然ダメだったので,それをごまかすために国民総所得を持ち出しているだけなのである

逆に言えば,自民党は国内経済が全然ダメなのを自認しているとみることもできる。

2点目~使っている数字は名目値~

調べてみたところ「36兆円」というのは,名目値である(やっぱりね・・・)。

実質国民総所得で見ると,増えたのは約25兆円。約11兆円も違う。

統計表一覧(2016年1-3月期 2次速報値) - 内閣府

ところで,経済成長率を見る場合は実質値を見るべきというのは,内閣府も指摘している。下記内閣府のサイトから引用する。

名目値と実質値の違いは? - 内閣府

名目値とは、実際に市場で取り引きされている価格に基づいて推計された値。実質値とは、ある年(参照年)からの物価の上昇・下落分を取り除いた値。

名目値では、インフレ・デフレによる物価変動の影響を受けるため、経済成長率を見るときは、これらの要因を取り除いた実質値で見ることが多い。

要するに,自民党は国内経済の成長を測る指標ではない国民総所得を用いて悲惨な実質GDPをごまかした上に,名目値を用いてさらにごまかしをしているのである。円安で物価を上げたのだから名目値が伸びるのは当たり前。

なんという高度なインチキスキルだ。もはや感動的である。

 

では次にこちらの主張に突っ込みをいれてみよう。

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有効求人倍率の増加はアベノミクスと無関係

先ほど述べたとおり,アベノミクスで増えた雇用の内訳をみると,円安とはほとんど無関係な産業ばかりである。

これに加え,下記の事情を考慮すると,有効求人倍率の増加はアベノミクスと無関係であることがよりはっきりする(以下,「続・アベノミクスによろしく」で説明したことと同じ内容を再掲する。もう読んだ方は読み飛ばしていただきたい。)

まず,日本は少子高齢化が進み,ただでさえ生産年齢人口すなわち働き手が少なくなっていく運命にある。下記厚労省作成資料のとおりである。

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http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/shakaihoshou/dl/07.pdf

 

このようにほっといても人手不足になる状況なのだが,そこに雇用構造の変化が拍車をかける。つまり,正規雇用が減り,そのぶんたくさん非正規雇用を雇う構造になっているので,労働者が全体として増える構造になっているのである。

グラフで見ていく。

まず,正社員は基本的に右肩下がりで減少していく傾向にある。

なお,なぜ最後の年だけ正社員が増えているのかについては,「【完結編】続・アベノミクスによろしく」に詳しく書いてある。

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他方,非正規社員は基本的に右肩上がりである。前年より下がったのはリーマンショックの翌年だけ。

f:id:monoshirin:20160620233118j:plain

統計局ホームページ/労働力調査

 

割合で見ると,非正規雇用が占める割合が確実に増え続けている。

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統計局ホームページ/労働力調査

 

正規社員は働く時間が長いが,非正規社員は働く時間が短い。したがって,非正規社員の増加に伴い,平均労働時間数は減少し続けている。

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毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査) 結果の概要|厚生労働省

 

このように,働く時間の長い人(正規社員)を減らす代わりに,働く時間の短い人(非正規社員)をたくさん雇う構造に変化させることで,労働者の数は全体として増えることになる。経済成長に加え,雇用構造の変化が労働者増に影響している。

下記グラフのとおりである。労働者はずっと以前から増加し続けている。

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統計局ホームページ/労働力調査

 

このように,元々人手不足になるところへ,雇用者をたくさん必要とする雇用構造の変化が加わり,余計に人手不足になることになる。だから,有効求人倍率が上がるのは当たり前なのである。それはアベノミクスとは全く関係無い。

 

3年連続賃上げ2%達成のカラクリ

 

これは以前の記事でも指摘したことだが,もう一度指摘する。

以前の記事では,アベノグラフィックスが使用しているデータの引用元が不明だった。私は,朝日新聞の記事にも載っている経団連の調査を引用元にしたのかと推測したが,CMを見てみると,連合の調査を元にしたようである。

重要なのは,3年連続2%の賃上げが達成された労働者の範囲である。

連合のプレスリリースをみると,集計の対象となったのは,「4764組合,262万0657人」とある。

ところで,総務省統計局の労働力調査によると,2016年5月時点での役員を除く雇用者数は5366万人である。

つまり,2%の賃上げを実現した労働者の割合は262万÷5366万=約5%に過ぎない。

約5%にしか当てはまらない数字をもって,あたかも国民全体の給料が2%上がったかのように見せかけようとしている。

本当は,下記のグラフのとおり,この3年間で国民の給料は約0.1%しか伸びていない(平成24年98.9⇒平成27年99)。

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毎月勤労統計調査 平成27年分結果確報|厚生労働省

 

これは具体的な額にすると平均月給が約300円しか伸びなかったことを意味している。

なお,これを言うと必ず「新たに非正規社員が増えたから賃金が伸びなかった」と主張する輩がいる。

しかし,アベノミクス3年間で増えた非正規社員は167万人である一方,全体の労働者数は先ほど見た通り優に5000万人を超える。

したがって,増えた非正規社員は全体の約3%に過ぎない。そして,たったの約3%しかいないのだから,平均値に及ぼす影響は極めて小さい。「非正規社員が増えたから賃金が伸びない」というのは比率を無視した主張である。

まとめ

自民党のCMにおいて,最後に安倍総理は「停滞したあの時代に後戻りをさせてはならない。私達は結果を出していきます。この道を力強く前へ」と締めくくっている。

 

断言する。停滞しているのは今である。金融緩和路線を進めても,消費が冷えるだけ。それはこの3年間のデータが証明している。

この道を進んでも何も待っていない。我々庶民にとっては生活が苦しくなるだけだ。

そんなに物価を上げたいなら最低賃金を思いっきり引き上げればいい。経営者は人件費を価格に転嫁せざるを得なくなるから,物価は上がるだろう。

そしてこの方法ならば,「賃金はそのままなのに物価だけは上がる」という消費低下の原因となった現象も起きない。

 

以上,自民党のテレビCMで謳っていることは全部インチキ又はアベノミクスと無関係なものばかりである。騙されてはいけない。

こんなことを平気でやられてしまうと,怒りを通り越して恐ろしくなってくる。

自民党は,いつの間にか自民党では無い別の何かに変わってしまったのではないだろうか。

 

アベノミクス失敗の解説動画はこちら。

 

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↓「【完結編】続・アベノミクスによろしく」はこちら

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