「介護殺人」考えた介護経験者 4人に1人 アンケート調査

「介護殺人」考えた介護経験者 4人に1人 アンケート調査
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介護疲れによって家族の命を奪う「介護殺人」が全国であとを絶たないなか、NHKが介護の経験がある人を対象に行ったアンケートで、介護をしている相手に対して、「一緒に死にたい」、「手にかけてしまいたい」と思ったことがある人が4人に1人に上っていることが分かりました。専門家は「介護をする人の負担を把握し、それを減らすという視点で、対策を取っていく必要がある」と指摘しています。
介護疲れによって家族の命を奪う「介護殺人」は去年までの6年間に全国で少なくとも138件発生し、およそ2週間に1件の割合で起きていたことがNHKの取材で明らかになっています。
NHKは、首都圏に住む介護をする人の支援を行っているNPO法人を通じて、家族の介護の経験がある人615人を対象にアンケートを行い、63%に当たる388人から回答を得ました。
この中で、介護をしている時に自分自身の心身に不調があったか尋ねたところ、「あった」と答えたのは全体の67%を占めました。
さらに、介護をしている相手に対する感情を聞いたところ、「一緒に死にたい」、「手にかけてしまいたい」のいずれかを思ったことが「ある」、「ときどきある」と答えた人は合わせて24%を占め、4人に1人に上りました。
具体的な状況については、「死んでくれたら楽になると思い、枕に母の顔を押しつけたことがあった」、「絶望し、親子心中や自殺を考えた」などと答えた人もいて、事件は起きていなくても、追い詰められた状態で介護をしている人が少なくない実態が明らかになりました。
今回の結果について、介護問題に詳しい国立長寿医療研究センターの荒井由美子研究部長は「国は在宅で介護をしている人の負担を把握することはうたっているが、現場には十分に浸透していないと思う。在宅での介護を進めるのであれば、家族の心身の健康状態を守ることが必要で、そうしないと共倒れになってしまう。介護者の負担を把握し、それを減らすという視点で、これからますます対策を取っていく必要がある」と指摘しています。

企業の理解不足 退職も

埼玉県に住む39歳の男性は、アンケートで、介護をしていた母親に対して、「一緒に死にたい」、「手にかけてしまいたい」と思ったことがあるかという質問に「両方ともある」と答えていました。
男性は、大学を卒業後、大手企業に勤めていましたが、7年ほど前から両親が体調を崩すようになり、相次いで認知症と診断されました。男性は介護のため、会社を休まざるをえませんでしたが、上司や同僚は全く理解しなかったといいます。
男性は「上司からは休みが多いと責められ、同僚からも無視された。『介護って何だ』とか、『女性がやるものではないか』などと言われ、つらかった」と話していました。

4年前に、体調を崩して退職した男性。その1年後に父親が亡くなったあとは、77歳の母親の面倒を1人でみてきました。母親は排せつがうまくできずに家の中を汚すことがあり、男性はいらいらして「手にかけてしまいたい」と思ってしまったといいます。
男性は「母親と口論になって、思わず、『一緒に住みたくない、死んでほしい、殺したい』とどなったとき、母親が睡眠薬を持ってきて、『これを飲んで死ぬ』と言い出した。われに返って必死に止めたが、母をそこまで追い詰めた自分に罪悪感を抱いた」と話していました。
危機感を感じた男性は、母親をグループホームに入居させ、今は離れて暮らしています。男性は「自分は犯罪者になりたくないので踏みとどまっているが、できるものなら、親を見捨てたい。『介護殺人』はこれからもあとを絶たないと思うが、それでも、社会や企業は変わらないだろうから、もう期待はしていない」と話していました。

専門家「介護者支援の新たな枠組みを」

今回の結果について、介護問題に詳しい国立長寿医療研究センターの荒井由美子研究部長は「介護をしている人を手にかけたいと思った人が4分の1もいたことは、非常に重く受け止めなければならない」と話しています。
そのうえで、「国は在宅で介護をしている人の負担を把握することをうたっているが、現場には十分に浸透していないと思う。在宅での介護を進めるのであれば、家族の心身の健康状態を守り、共倒れを防ぐことが大切だ。介護者の負担を把握し、それを減らすという視点で、これからますます対策を取っていく必要がある。今後は、介護者を支援する新たな対策の枠組みを作るとともに、定期的に健康状態をチェックすることなどが大切だ」と指摘しています。