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パーティ
王都
「お館様、リトネお坊ちゃまから手紙とお届け物がきています」
シャイロック家の執事が、王城の宰相の執務室に入って告げる。
宰相として激務をこなしていたイーグルは、久しぶりの孫からの手紙で喜んだ。
「どれどれ……ほう。蜘蛛族を、わが領民として受け入れ、『虫の森』の管理人にしたのか。あそこの虫はたまに大発生して、周囲の穀倉地帯に被害をもたらすからのう。なるほど、どんな者にも使い道はあるものじゃ」
リトネからの報告に、思わずニヤリとしてしまう。
「上に立つものは、人をうまく使わねばならん。たとえ世界中で忌避され気味悪がられている一族でも、役に立つとみると利用し民に加えるか。なかなかやる」
そうつぶやきながら、リトネから届いた包みを開ける。
中にはうっすらと銀色に光る下着が入っていた。
「なになに。リトネの奴。ワシのために下着を作って送ってくれるとは。心憎いことをしてくれるのう」
孫の情愛を思い、おもわずほろっと来る。
「ありがたく着させてもらおうかのう」
下着を身に着けてみると、実に軽く、通気性にあふれていた。
「うむ。ぴったりじゃ。気に入ったぞ」
感激したイーグルは、大事な式典やパーティがある日にはその下着を着て出席するようになるのだった。
それからしばらくして、ルイ17世の誕生日パーティが開かれる。
宰相シャイロックによって宮廷費が大幅に削られている中、久しぶりのパーティだった。
「みんな、僕の誕生日に来てくれてありがとう!乾杯!」
壇上で明るく挨拶する国王に、参加した貴族や大商人が唱和する。
「乾杯!」
多くの出席者が笑顔で杯を交わす。
もちろんイーグルもその中に混じって出席していた。
「イーグル様、ご指示通りに市井の店から調達したものを並べましたが、これでよかったのでしょうか?」
今回のパーティを取り仕切った、新しく就任した通産大臣が恐縮する。並べられている酒や食事は精一杯飾り立てられているものの、実は以前に比べて大幅に質が劣るものだった。
「よいのじゃ。見栄を張るだけのパーティなど意味がない。それに、以外と好評なのではないか?」
貴族の反応を見て、イーグルはニヤリと笑う。
確かに、貴族たちは物珍しそうに料理を食べていた。
「マンサという魚の塩焼きらしいですわよ。へえ、なかなか美味しいですわね」
着飾った貴婦人が細長い魚を食べて笑みをこぼす。
「ほう。ビッククックルーの肉を串に刺して焼いたものか。なかなかうまい」
偉そうな貴族の男が、素手で肉が刺さっている串をつかんで食べる。
イーグルが命令した予算内に収めるために、庶民的な料理が多かったが、それが逆に新鮮思われておおむね好評だった。
(やれやれ。やっと倹約の精神が根付き始めたか……人に嫌われながらも、うるさく口出しして意識改革を迫ったかいがあった)
苦労して行った改革の成果が出始めたことを実感して、イーグルは満足するのだった。
その時、一人の裕福そうな商人が近づいてくる。
「シャイロック宰相様、どうぞ一杯」
自らの手でワインの樽を開けて、杯に酒を満たす。
「いただこう」
儀礼上、断るのも角が立つと思い、杯を仰ぐ。
すると、いきなり呼吸が苦しくなった。
「これは、まさか!毒」
イーグルに酒を注いだ商人はニヤニヤと笑っている。
「おのれ……え?」
次の瞬間、下着から薄い魔力が発せられ、呼吸が楽になってきた。
「はあ……はあ、……これはどういうことだ?」
回復したイーグルは、商人をにらみつける。
「わ、私には何のことだか……」
目の前の商人は明らかに動揺した仕草を見せる。
「なら、貴様が飲んでみるか?」
警備していた騎士を呼び、商人に迫ると、彼は無言で下をむいた。
「……とりあえず、こやつを牢にいれておけ。証拠としてこの酒も保管するのじゃ。あとでじっくり取り調べてくれる」
イーグルが不快そうに顎をしゃくる。商人は騎士に連れて行かれた。

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