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必要な人
「へえ~。これがあの伝説の『天蜘蛛の布」かあ」
リトネに銀色に光る布を見せられて、リトルレットは感心する。
「……やわらかい。いい手触り」
「かっこいいね!」
ナディとリンも布を触って感触を楽しんでいた。
「いいだろ。これを使って作った『天蜘蛛の羽衣』は、魔法も物理衝撃も防いでくれる。それだけじゃなくて、熱や毒攻撃にも強く、魔力も少しずつ回復してくれるんだ。これさえあれば、ほかのどんな防具も必要ないんだぞ」
魔族との戦いが始まる前に、ヒロインの究極の防具を手に入れることができてリトネは喜んでいた。
わざわざヒロインたちを呼んで、見せびらかしたりしている。
「……で、その布を使って誰に「天蜘蛛の羽衣」を作る気?」
「えっ?」
ナディからそんな声がかけられて、リトネはびっくりしてしまった。
「この量だと一人分だよね……誰のために作るの?」
リトルレットの声が冷たく響く。リンもはっとなって、リトネを見つめた。
「だ、誰にって?え、えっと……その……まだ決めてないというか……」
しどろもどろになるリトネだったが、彼女たちは容赦なかった。
「あの…えっと。私はいいよ。お兄ちゃんが好きな人にあげたら……」
リンもそういいながらも、欲しそうな顔をしていた。
「一応、私は第一夫人予定の婚約者。大切にして欲しい」
ナディは冷たい顔で睨んでくる。
「……ボクは無理やり婚約者にされたんだよね……なのに、服も作ってくれないのかなぁ?」
リトルレットは泣き真似をする。
(考えろ……考えろ。今いちばん必要としている人は誰だ。そうだ!)
この窮地を脱するために、必死に考える。すると、いいことを思いついた。
「ネリーさん!頼みます!」
そばで面白そうに見ていたメイド長のネリーに手渡した。
「ふえっ!わ、私ですか?」
いきなり巻き込まれて、ネリーはびっくりする。
あっけにとられていた三人のヒロインから、徐々に怒りのオーラが湧き上がってきた。
「お兄ちゃん……ネリーさんを……」
「……最低……」
「君ってやつは……」
三人が立ち上がって迫ってくるので、あわてて言い訳する。
「ご、誤解だよ!今一番必要な人は、ここにはいないんだ。だから、ネリーさんたちメイド部隊に、その人の為に服を作ってもらうんだ」
リトネは必死になって説明する。
「しょうがないよね……」
それを聞いて、三人は納得するのだった。

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