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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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欲深い人間

「恥ずかしいので、布を織るところは見ないでくださいね」
アマグーモは牢から出され、与えられた一室に『清らかなるはた織り機』と共に篭る。
部屋の外では、リンがなぜかわくわくした顔をしていた。
「ねえねえ。お兄ちゃんに読んでもらった『鶴の恩返し』みたいだね」
「……ああ。鶴じゃなくて蜘蛛だけどな」
リトネも同じ感想を抱く。
「ということは……見ちゃいけない?」
「この場合、見なくても想像つくだろ」
若干嫌そうにリトネは言う。全裸になった八本の腕を持つ美少女が、尻から糸をだしながらはた織り機の上でアクロバティックな踊りのようなしぐさを繰り返すシュールな光景が脳裏に浮かぶ。
「……そうだね」
リンも同じような想像をしたのか、ちょっと元気がなくなった。
「昔話に学んで、織り上がるまでほうって置いてあげよう」
リンの頭をひとつなでて、リトネは自室に戻るのだった。

次の日、銀色に光る一枚の布をもって、疲れ果てたようなアマグーモが出てきた。
「で、できました。これが『天蜘蛛の布』です」
目の下に隈ができ、体は糸の吐き過ぎでやせ細っているが、いい仕事ができたという職人の笑顔を浮かべていた。
「ご苦労様です」
『天蜘蛛の羽衣』の材料となる布を手に入れて、リトネはほくそ笑む。
「それでは……私はこれで失礼します」
ぺこりと頭を下げて、『清らかなるはた織り機』を持って帰ろうとする。
しかし、透明な壁によって阻まれた。
「えっ?」
「お待ちなさい。どこに行かれるのですか?」
アマグーモが振り向くと、悪そうな顔を浮かべたリトネがいた。
「えっ?だって、『天蜘蛛の布』を織れば許してくれるって……」
「ええ、泥棒しようとした罪は許してあげますよ。だから、我が家の家宝『清らかなるはた織り機』は置いていってください」
実に冷酷な顔をして告げる。
「そ、そんなぁ……」
「残念でしたね。私が許すといったのは泥棒の罪だけ。『清らかなるはた織り機』をあげるとは言っていません」
ドヤ顔をして言い放つ。たしかにリトネの言っていることは間違っていなかった。
「ひ、ひどい……死ぬ思いをして布を織ったのに。や、やっぱりお婆さんは間違ってなかった。人間ってずるくて欲が深い生き物なんだわ……わーーーん」
『清らかなるはた織り機』を抱きしめて、アマグーモは泣き出す。
「ええ。私は欲が深いので、もっと『天蜘蛛の布』がほしいのです。ふふふ、もし『清らかなるはた織り機』を返してほしければ……」
泣いているアマグーモの耳元で、甘くささやく。
「あなた方の身柄を私に預けていただけませんか?悪いようにはしません」
「……え?」
あまりに意外なことを聞いて、アマグーモは目をぱちくりとさせるのだった。
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