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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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泥棒

壁を登ることで、なんなくシャイロック城への侵入を果たす。
深夜なので明かりも少なく、たまに警備の騎士が蝋燭をもって巡回しているだけだった。
「よし、順調だ」
天井を伝って宝物庫を探す。地下奥深くにそれはあった。
「そーっと。音を立てないように……」
少女は独り言をいいながら、音もなく床に降り立つ。
ドアを開けようとしたが、予想通り鍵がかかっていた。
「仕方ないな。恥ずかしいけど……」
尻をドアに向けて、踏ん張る。すると、真っ白い糸が生えてきた。
「……お婆様みたいに上手く操れないから、できるかどうかわからないけど……」
慎重に鍵穴に糸を差しこむ。長い時間がかかったが、なんとか鍵を開けることができた。
「お邪魔しまーす」
おそるおそる宝物庫に入る。中には金銀財宝の他に各種マジックアイテムや高価な美術品もあったが、彼女はそれらには目もくれなかった。
「えっと……アレは。きっとこの中にあるはずだけど……」
広い部屋を探していたら、隅に布がかけられている大きなものがあった。
「これだ!やった!」
少女が布を取ると、彼女の一族の宝物が現れる。
「これできっとみんな帰ってきてくれる……私たち蜘蛛族の未来は救われる……」
喜びながら尻から糸を出し、大きな宝物を包み込む。あっという間に巨大な繭が出来上がった。
「さて……これからだよね。外まで慎重に運ばないと」
少女は地面に這い蹲り、普段足として使っている強靭な手を使って繭を転がしながらゆっくりと廊下を進んでいった。

ナディの部屋
ゴロゴロという音が聞こえてくる。
よく寝ていたナディは、廊下から聞こえてきた音のせいで目が覚めた。
「……うるさい。今何時だと……」
不機嫌そうにぶつぶつ言いながら廊下に出る。
すると、奇妙なものがいた。
八本の手を体から生やした少女が、後ろ向きになって大きな白い繭をころがしているのである。
ナディは状況が理解できず、一言つぶやいた。
「……フンコロガシ?」
「蜘蛛だもん!」
奇妙な少女は顔を真っ赤にして否定する。その言葉でナディはハッとなった。
「ど、泥棒!」
杖を取り出し、氷を生み出して投げつける。
「ご、ごめんなさい!」
少女は繭を抱きかかえ、窓ガラスを割って中庭に飛び出した。
「みんな!おきて!泥棒!」
普段めったに大声をださないナディが声を張り上げる。その声は城じゅうに響き、警備の騎士が騒ぎ出した。
「侵入者だ!」
「泥棒だぞ!みんなおきろ!」
あちこちから松明が掲げられ、少女の姿が照らされた。
あっという間に城の出口が閉鎖され。強そうな騎士が中庭に集まってくる。
「ま、まずいよ。どうしよう……」
巨大な繭を抱えたままの少女は動きがとれず、騎士たちに取り囲まれるのだった。
「ツチグーモ?生きていたのか!」
起きてきたリトネがその姿をみて驚く。中央部分は人間で大きさはかなり小さかったが、全体的な形は六大魔公のツチグーモとよく似ていた。
「……お母様の仇」
ナディも出てきて、油断なく杖を構える。
「お前のせいでリリパット銅爵家は貧乏になったんだ!」
リトルレットは目に怒りをたぎらせ、巨大なペンチを出して威嚇した。
「みんな、下がっていろ」
リトネが杖を掲げて、大きなトラックを召喚して押しつぶそうとした時。
「ご、ごめんなさい!!!!!」
いきなり少女が繭を手放して、土下座して謝ってきた。
「えっ?」
いきなりの謝罪に、リトネは気勢を削がれる。
「本当にごめんなさい!泥棒に入ったのは謝ります。お願いします。許してください!」
涙を流して頭を地面にこすり付ける。まさか謝罪されるとは思わなかったので、ナディやリトルレットもあっけにとられた。
「お兄ちゃん。許してあげようよ。苛めちゃかわいそうだよ」
いつの間にかリンがやってきて、彼女をかばう。
中庭は気まずい沈黙に満たされるのだった。
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