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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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食べるということ

リンの部屋
リンは一人部屋に篭って、泣いていた。
(トリさん……食べちゃった。ごめんなさい)
さっき食べたフライドチキンに、ひたすら心の中で謝る。
(お兄ちゃん。なんでこんなことをしたんだろう。優しいのに)
頭の中では、初めて感じるリトネへの怒りや悲しみ、疑問などが渦巻いていた。
その時、ドアをノックされる。
「リンさん。お仕事中ですよ。出てきなさい」
メイド長のネリーの声が聞こえてきた。
「……いや」
「しょうがないですねぇ」
いきなり近くで声が聞こえてきて、リンはびっくりする。
気がつくと、近くにネリーが立っていた。
「ネリー様、どうやって中に……」
「ふふふ。水の魔法の使い手の私には、鍵なんて無意味ですよ。あらあら、こんなに泣いて……」
ネリーは優しくリンの涙をぬぐう。
「言いたいことがあるのなら、私に話してみませんか?」
まるで母親のように優しく聞いてくる。リンは思わず、心のうちをネリーに話していた。
「……そういうわけで、トリさんを食べちゃったの。私、どうしたらいいか……」
「なら、そのトリさんに聞いてみましょう。『冥魂召喚』」
ネリーの手に握られていた杖が、怪しく輝く。
気がつくと、リンの周りにいくつもの半透明のニワトリの姿が浮かんでいた。
「トリさん!」
「コケッ」
リンがあわてて抱き上げようとするが、ニワトリはすいっと逃げる。
「私のことを怒っているのかな?」
「なら、聞いてみましょう」
再びネリーの杖が輝くと、ニワトリの魂と意識がつながる。彼らの考えていることがわかった。
「これって……」
彼らの意思を読んだリンは、複雑な思いをする。リンは彼らに愛情を向けていたが、彼らはリンのことを『エサが出てくる場所』としか認識していなかった。
他にも『安心して過ごせた』『卵たくさん産めた』『子供できた』という満足感のほうが大きく、殺された食べられたことについては恨みなど全く感じてなかった。
むしろ、『楽になった』『早く大ニワトリ神のところに行きたい』という思念のほうが大きい。
「わかりましたか?彼ら動物は自然のままに生きています。精一杯生きて、子供を生んで、年をとったら誰かの糧になる。そうやってりっばな自然の一員の役目を果たしているのです」
「うん……よくわからないけど、トリさんが恨んでないみたいで、安心したよ」
リンはほっと心をなでおろす。
(もっとも、人間や魔族、竜族や魔物の長くらいになると自我を持つので、殺されることへの恨みも優しくされたことへの感謝ももつのですが……リンさんに言うことではないですね)
ネリーは内心でそう思いながら続ける。
「私たちは、彼らがくれた糧によって生かされているのです。そのことに感謝していただきましょう」
そういって、リンが食べていたフライドチキンの残りを渡す。
リンは吹っ切れたように、チキンを最後まで食べた。
「おいしい……」
「はい。おいしいです。感謝しましょう」
「トリさん。おいしいお肉、ご馳走様でした」
リンはニワトリたちの魂に向かって、感謝の意を告げる。ニワトリたちの魂は、天に昇っていった。
(そうですよ……食べるためとか生きるためならともかく、楽しみのために殺すなんて野蛮なことですよ。たとえ魔物や魔族だって、必死に生きているのです。でも……)
そんなリンを見ているネリーの目には、何かを悲しむような涙が光っていた。
リンはネリーと一緒に、リトネに謝りにいく。
「お兄ちゃん。叩いたりして、ごめんなさい」
「いや、俺が悪かったよ。最初からトリさんたちはペットじゃなくて家畜だといううことを伝えておくべきだったな」
リンに養鶏に興味を持ってもらうためとはいえ、黙っていたことを反省する。
お互いに頭を下げあって、許しあう。
「お兄ちゃん。私はこれからもトリさんたちのお世話を続けるよ。トリさんたちが生きている間は快適に過ごせて、ちゃんと子供を増やせるように」
「ああ、これからも頼むよ」
抱き合う二人を、ネリーはほほえましそうに見ているのだった。
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