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チキン
夜
リンが寝静まったころを見計らって、リトネはコックにあることを頼む。
「……明日、アレを頼むよ」
「アレですかい……まあ俺っちは大人だから、そうしないといけないことはわかりますがね。でも、リンのお嬢ちゃんがなんていうか……」
コックは気が進まないようだったが、リトネは首を振る。
「ニワトリはこれから貴重な食料としてシャイロック領に広めないといけない。卵だけではなくて、魔物の肉に変わる安定して供給できる動物タンパク源としてもね。隠していても、いつかは現実を知るときが来る。だから、ちゃんと俺が教育するよ」
そういいながらも、リトネも気が進まない様子だった。
次の日、リンがニワトリの世話をしていると、コックとリトネが入ってくる。
「あれ?コックさんとお兄ちゃん。どうしたの?」
いつもと同じ明るい笑顔を向けてくるリンに、罪悪感を覚えながらもリトネは言った。
「卵を産まなくなった子たちに、最後のお勤めをしてもらいに来たんだ」
「お勤め?」
「それじゃ、やってくれ」
「……はい」
コックは元気のないニワトリを捕まえて、もっていく。
「コックさん、トリさんたちをどうするんだろ?」
「……すぐにわかるよ」
リトネは辛そうな顔になるのだった。
その日の昼に、新しいメニューが出される。
「これはうまい!」
「たべたことのない味だ。この茶色の柔らかい肉は、いったい何の魔物なんだ」
家臣たちは、「フライドチキン」と書かれた新メニューに舌鼓を打っていた。
「お兄ちゃん。このお肉おいしいね!なんのお肉なんだろ?」
この日一緒に食事を取っていたリンは、リトネに向かってにっこりと笑いかける。
彼女は「フライドチキン」を気に入ったようで、ふた皿も注文していた。
「ううっ……」
彼女の無邪気な笑顔に罪悪感を感じる。しかし、ここで逃げても仕方ないので、リトネは正直に告げた。
「この肉は、あのトリさんの肉なんだ」
「えっ?」
リンのフライドチキンをかじる手がピタッと止まる。
「あのトリさんは、卵を産むのがとまったら、後は死んじゃうだけなんだ。だから、僕たちのご飯になってもらった」
リトネがそういったとたん、リンは持っていたチキンを落とす。
「そんな……」
「これは仕方ないことなんだ。リンだって魔物のお肉を食べたことあるだろ?僕たちが生きるためには、お肉も食べないと……」
「だからって……お兄ちゃんの馬鹿!」
いきなりリンはリトネにビンタする。
「ばかーーーーー!」
そのまま泣きながら走っていってしまった。
その様子を硬直してみていたメイドの中から、メイド長のネリーがリトネに近寄ってくる。
「いったい、どうしたんですか?」
「実は、こういう訳で……」
卵を産まなくなったニワトリをフライドチキンにしたことをリンに説明したことを告げると、ネリーはやれやれといった顔になった。
「なるほど。というか、お坊ちゃまってデリカシーがないですよ。わざわざそんな事を言わなくても」
「わかっている。だけど、これからニワトリは卵だけじゃなくて食肉としても広めていきたい。リンにはいずれ養鶏業を任せていきたいとおもったんだ。だから、つい言ってしまったんだけど……」
10歳のリンには少し酷な話だったかと、リトネは反省する。
「仕方ないですね……ここは私に任せてください」
ネリーはリンを説得するために、食堂を出て行った。

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