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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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ヒヨコ

ニワトリの世話をしていたある日、リンは疑問に思う。
「あれ?卵の中に違いがあるみたい」
二つの卵を手にとって、その違いに気がつく。
「お兄ちゃんに聞いてみよう」
卵をポケットに入れて、リトネの部屋に向かう。
「お兄ちゃん。この卵とこの卵はなんか違うんだけど、どうしてだろう」
リトネの前で、見た目は同じような卵を並べて聞いてみた。
「俺には同じようにみえるけど、どこが違うの?」
「うん。水の魔力を使って中を探ってみると、こっちの卵は中の水がぐるぐる回っているのを感じるの。でもこっちはとまっている」
二つの卵の違いを説明する。それを聞いたリトネはピンと来た。
「それは、たぶん有精卵と無精卵って違いだと思うよ」
「有精卵と無精卵?」
聞いたことのな言葉を聴いて、リンは首をかしげる。
「液体が循環しているほうは、たぶん生きていて、これから生まれようとしているんだ」
片方の卵を持ち上げてリトネは説明する。
「え?それじゃ、この卵食べちゃだめかな?」
「うーん。まだ生まれてないんだからダメってことはないんだけど、それじゃそっちをトリさんに返してあげてみよう。そうしたら、可愛い赤ちゃんが生まれるかもしれない」
「本当!?楽しみ!」
リンはニワトリの赤ちゃんを想像して、にっこりと笑うのだった。

一ヵ月後
鶏小屋に新しい命が生まれてくる。
「ピヨピヨ!」
そのあたりを元気に走り回っているのは、黄色い毛が生えたヒヨコだった。
「か、可愛い!」
「ほんと!こんなの初めてみた!」
噂を聞きつけたメイドたちや、ナディやリトルレットまで見に来ていた。
「きゅいきゅい!」
ミルキーも気に入ったのか、ヒヨコと追いかけっこして遊んでいる。
「お兄ちゃん。ほんとこのトリさんたちっていい子たちだね!可愛いし卵を産んでくれるし!」
すっかりニワトリを気に入ったリンは、満面の笑みを浮かべていた。
しかし、さらに一ヶ月過ぎたころ、リンはちょっと悲しい顔をしてリトネに相談していた。
「お兄ちゃん。このトリさんたち元気がなくなって、エサも食べないし、卵も産まなくなっているの」
最初に召喚したニワトリたちのかなりの数が、別ゲージに入れられて分けられていた。
彼らはどことなく元気がなく、弱っているようである。
リトネはそれを見て、悲しそうに告げた。
「この子達はもうお年寄りなんだ。だから卵を産まなくなっている」
「え?そうなの?」
「うん。もともと異世界で卵を産む役割が終わったニワトリしか召喚できなかったからね。仕方ないんだ」
「そっか……」
リンは悲しい顔をしていたが、そういわれて納得する。
「トリさんたち、今まで卵を産んでくれて、ありがとうね」
ニワトリたちから、コケコッコーという元気のない泣き声があがる。
それを見ながら、リトネはこれからのことを悩んでいた。
(うーん……このままにしておきたいけど、いつかは、教えないといけないんだよな。金持ちになる云々関係なしに、俺たち人間が生きていくために必要なことを)
倉庫の隅のほうにいる、元気をなくしたニワトリたちを見ながら、リトネはそう思うのだった。
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