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貴族倒し
「わざわざ来てくれたのか。すまんな。久しぶりに飲むか」
ゼニスキーは友人を温かく迎え、高級酒場に連れ立っていく。
しばらく昔話で盛り上がった後に、友人が結婚のことについて聞いてきた。
「貴族になることは、お前の夢だったからな……それで、どこを狙うんだ?」
ゼニスキーはもったいぶって、どこと結婚するのか手紙には書いていなかった。
「ふふふ。聞いて驚け。リリパット銅爵家だ。来年の今頃は、ワシの子供が生まれてそいつが次の当主になる。そうなれば、ワシは貴族の一員だ!」
ドヤ顔をするゼニスキーだったが、友人はそれを聞いて首をかしげた。
「え?なんでお前の子供が当主になるんだ?」
「ふふふ。あそこには男子がいない。だから娘をすべて借金のカタに嫁にしてやるんだ。若くて可愛い嫁と、銅爵家の婿という立場……俺はまさに人生の絶頂を迎えている」
幸せオーラ全開の彼だったが、次の友人の一言で一気に奈落に落ちる。
「娘をすべて嫁にするって?お前は知らないのか?あそこの三女が、第二夫人としてシャイロック家に嫁ぐ予定なんだぜ!ちょっと前に婚約が成立してパーティが開かれていたのに!」
それを聞いてゼニスキーは真っ青になる。商売をしに王都にいってて、全く知らなかったのである。
「馬鹿な!三女なんているわけが!」
「冒険者をしていたからあまり知られてなかったけどな。でもれっきとした実子だぜ。情報不足だったな」
友人はゼニスキーを哀れむように笑う。
「ま、まずいぞ!そんなのがいるということは……」
「ああ。あの禁じ手である「貴族倒し」を使うつもりだろうな。くくく、リリパット銅爵の方が上手だったな。ご愁傷様」
友人は可笑しそうにグラスを傾ける。
「貴族倒し」とは、金に困った貴族が商人たちから金を巻き上げる最後の手段である。娘を嫁に出して金を借り、別な娘を自分より上位の貴族の嫁に押し込んだ後に貴族位を王に返上して、家そのものを潰すのである。そして間髪いれずに上位の貴族に嫁いだ娘が生んだ子供に家を再興させる。その場合、爵位は落ちるが元の領地はそのまま引き継ぐことができ、借金も帳消しになる。商人の手元に残るのは貴族の娘だけになってしまうのである。
「じ、冗談じゃない!この話は断る!」
ゼニスキーはあせった様子で立ち上がる。
「お、おい。ここの酒代……」
「好きに飲んでいい。俺につけといてくれ!」
ゼニスキーはあたふたとして出て行く。後に残された友人はニヤリと笑った。
「くくく、感謝しろよ。俺が言ったことは事実だからな。たとえリトネお坊ちゃんに雇われたとしても。しかし、12歳でここまで考え付くことができるとは、恐ろしい坊ちゃんだぜ」
リトネに大金で雇われて役目を果たした商人は、他人の金で美味い酒を飲むのだった。
リリパット銅爵家 地上の館
ひげを生やした見た目は若い男が、20代半ばに見える女に怒られていた。
「まったくもう!娘を下賎な商人に嫁がせて、お金を借りようなんて!」
怒っているのはリトルレットたちの母、リリパット銅爵夫人である。
「だ、だが、実際問題金はない。ここは断腸の思いで『貴族倒し』をするしかないではないか!」
必死に言い訳しているのはリリパット銅爵である。彼は娘を犠牲にすることに対して忸怩たる思いを感じてはいたが、仕方ないと思っていた。
「足りない分は、シャイロック家から借りればいいのですわ!」
「婿殿にこれ以上迷惑をかけるわけには……」
「そんなことを言って、あなたの本音は違うでしょう」
夫人に鋭く責められて、銅爵は目を泳がせる。
「な、なんのことだ!」
「あなたは、便利に暮らせる住居エリアに帰りたいのでしょう!地上の館には面倒をみてくれるゴーレムはないですからね!」
妻の追及に、ついに銅爵は観念したのか首を縦に振った。
「そのとおりだ!地上の野蛮さといったら何だ!何百年立っても少しも進歩しない。空調もなければ、酒を冷やす冷凍ゴーレムすらないんだぞ!暑いのはいやだ!寒いのも嫌だ!自動画像計算型遊戯ゴーレムで遊びたい!」
子供のように駄々をこねる夫に、夫人はあきれる。
「それくらい我慢なさい!」
「やだったら、いやだ!」
夫婦喧嘩が延々と続きかけたとき、家臣からゼニスキー商人の訪問が伝えられる。
「ちょういどいい機会ですわ!はっきり断りましょう!」
「いやだ!金は絶対借りるぞ!」
二人は喧嘩しながら応接室に入っていった。

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