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銅爵家の窮状
一ヵ月後
リトネの元に、馬車などを取り扱っている商人が殺到していた。
「リトネ様、あの『自転車』というのは、あなたがおつくりになられたのですか?」
目をキラキラさせて迫ってくる商人たちに、たじたじとなるリトネ。
「え、ええ、まあ……」
「家臣の方々があれにのって颯爽と町を走っているのをみた人から、問い合わせが殺到しています。ぜひ私に売ってください!50アル出します!」
「いいえ、私に!60アルだします」
「ええい!80アル!」
商人たちの間で勝手にオークションが始まってしまう。
「ち、ちょっと待ってください。あれは一人の職人による限定生産で、大量に作れるようなものじゃないので……」
リトネは断ろうとするが、彼らは引かなかった。
「いくらでも待ちます!お願いですから売ってください」
暑苦しい顔を近づけて頼み込んでくる商人たち。
「わ。わかりました……」
結局、自転車を卸すことを約束させられてしまうのだった。
リトルレットの倉庫
リトネから話を聞いたリトルレットは、断固として首を振った。
「嫌!」
「……やっばり?」
うすうすは予測できたが、リトルレットは自転車を大量につくる事を拒否するのだった。
「当然。一台とか二台とかならともかく、100台ってなにさ!ボクは自転車を作るゴーレムじゃないぞ!」
「そこをなんとか……」
リトネは頼み込むが、リトネレットは拒否する。
「ボクは研究に忙しいんだ。帰って!」
そういうと、彼女は自分の研究に没頭してしまった。
(困ったな……金に全く興味がないから利益で釣ることが通用しないし。あまり無理強いしたら、欲張り扱いされて嫌われるし……)
ナディとは違う方向で現実を見ることから遠ざかってしまい、リトネはほとほと困っていた。
(こういうタイプは、好きに研究できる環境だけ与えて利用するのが一番なんだけど……どうすればいいかなぁ)
考え込んでいると、家臣から連絡が入った。
「リトネ様、リリパット銅爵家から使者が来ています」
「すぐ会おう」
リトネは応接室に向かうのだった。
応接室で待っていたのは、黄色い頭巾と青い頭巾をかぶった高校生ぐらいのリリパットだった。
「わが領の救世主、リトネ様。お久しぶりでございます。リリパット銅爵家長女、トーイレット・リリパットでございます」
「ブルーレット・リリパットと申します」
リトルリットに似ているが、妖艶な雰囲気を持つ長女と無表情な次女は挨拶をして頭を下げた。
「お久しぶりです。パーティ以来でしたね。今日はどういったご用件でしょうか」
応接室のソファに座ったリトネがそう話を向けると、2人ともいきなり涙を流し始めた。
「ううっ……我々を救ってくださった勇者様に、受けたご恩もお返ししてないのにさらにお願いするのは厚かましいのですが……何卒お助けくださいませ。恥を忍んでお願いいたします」
「お願いします。助けていただけたら、私たち2人ともあなたのものになります」
2人は床にひざまずいて懇願する。
「い、いきなりなにを……?」
「実は……我々リリパット家はかつてない危機に遭遇しているのです」
トーイレットは涙ながらに実家の窮状を訴え始めた。

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