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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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研究者

「まるで風のように早く走れる。ふっ……私は今、風となっている」
「キャー!怖い!でも面白い!」
いい年したおっさんや成人女性が補助輪つきの自転車でキャーキャー騒いでいるのはシュールだったが、概ね好評であった。
彼らは最初はふらふらとしながらも、補助輪のおかげで転倒することはない。安定した自転車に乗っているうちにだんだん慣れて、早く走れるようになっていた。
「皆さん。これを一台30アルで売ろうとおもいますけど、買いたい人はいますか?」
それを聞いて、家臣たちは考え込む。
(30アルか……馬の1/3程度の金額で、飯代もかからない。城までの通勤に使えるな)
財力があって、馬通勤をしているおっさんたちから手が上げる。
「ぜひワシらに売ってください」
それをみて、若い家臣やメイドたちから声が上がった。
「ずるい……おぼっちゃま。私たちの給料じゃ厳しいというか……まあ買えなくもないんですが、一括だとちょっと……」
モゴモゴという彼女たちに、リトネは笑顔をみせる。
「もちろん分割でも大丈夫です。給料天引きで30回払い、金利なしでご奉仕します」
リトネはテレビショッピングみたいな営業をかける。
「なら……私たちも買います!」
たちまち城の使用人たちに何十台も売れるのだった。
「あのさ……売るのはいいけど、作るボクの都合を考えてなかったでしょ」
「ごべんなさい」
リトルレットにペンチでぐいぐいとほっぺたを引っ張られているリトネがいる。
「どーすんだよ!30台も注文をとって!」
「……お願いします」
リトネはペンチの痛みに耐えながら、笑顔を浮かべて親指を立てる。
「もう、馬鹿!君にも手伝ってもらうからね!」
それから一週間、リトネはずっと部品召喚にこき使われることになるのだった。
一ヵ月後
リトネはリトルレットに給料を払う。
「君の給料20アルを持ってきたんだけど……」
「そこに置いておいて」
振り返りもせずにリトルレットは言葉を返す。
「いやー。これって本当に面白いよ、水の渦巻きで衣類の汚れを取るって。川のそばにある村で、滝が落ちるときにできる渦に服を入れて洗濯するってのは聞いたことがあったけど、まさかそれを家庭用ゴーレムで再現しているとは……」
「あの……」
「この「吸い込みゴーレム」もすごい。空気の吸い込みで掃除するって。発想が天才だ!」
彼女は電化製品の分解に夢中になって、周りが目に入らなくなっていた。
「なんと……熱線をあてて食べ物を温めるゴーレムだって?すごいすごい!」
「話があるんだ!」
リトルレットが相手をしてくれないので、リトネは強引に肩をゆさぶる。
彼女はようやく電化製品から目をはなしてリトネを見た。
「なんだよもう……うるさいなぁ。面白くなってきたところなのに」
リトルレットは邪魔されて、不機嫌な顔になっている。
「自転車を売った代金が900アル入ってきたんだけど、君の取り分を決めておこうと思う」
「取り分?」
きょとんとした顔になるリトルレット。
「そうさ。君のおかげで自転車を作ることができるようになった。だったら君にも利益を配分しないといけないだろう」
そういうリトネだったが、彼女に冷たく断られた。
「そんなのいらない」
「へっ?」
「お金には困ってない。冒険者時代に蓄えたお金もあるし、必要なのは食べるためのお金だけ。月に20アルもあったら充分。そのお金は全部君にあげるから、邪魔しないで!」
そういうと、リトルレットは自分の研究に没頭するのだった。
(うわぁ……こりゃ完全に研究者だよ。自分に興味があることにしか関心がなくて、お金なんてどうでもいいというタイプ。まてよ、だったらなんで原作のリトルレットは、金貸しや金持ちを嫌うようになったんだ……)
釈然としない思いにとらわれながら、リトネは声をかける。
「とりあえず、半分こにしよう。残りのお金は一応預かっておくよ」
「はいはい。それでいいから」
リトルレットはシッシッと手を振ってリトネを追い出す。金貨の袋を抱えてリトネは退散するのだった。

「反逆の勇者と道具袋」9巻が発売されました。

くわしくは活動報告をお読みください。
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